というわけで、西洋のベビーシャワーは完全に出産する側を労うものであり、その好意にお返しをする習慣はありません。強いて言えば、祝ってもらった側が事後に「サンキューカード」なるお礼の手紙を出す習慣はありますが、それも強制ではないですし、あそこのお嬢さんはサンキューカードも出さなかったわと眉をひそめる人もいません。産後大変なお母さんを助けるのが目的ですから、お返しという負担をかけてしまっては元も子もないですよね。まして、日本のように半額ものお返しをすることはありません。そんなことをしたら贈り物を喜んでいないとか相手と張り合っているかのような印象を与え、かえって失礼に当たります。

 ベビーシャワーに限らず、プレゼントにまたプレゼントの応酬をする習慣は、アメリカにはないに等しいと思います。何かお祝いをもらったら「今度は自分が別の機会にお祝いをしよう」という考え方をします。誕生日や結婚式などはけっこう広範囲まで人を呼ぶので、何かとお祝いする機会が多いのです。以前プレゼントをくれた人に「今度は私の番」との気持ちで贈り物をすることもあれば、「自分がいただいた分、別の人に還元しよう」とペイ・フォワード(pay it forward)の精神で全く別の人に贈り物をすることもあります。

 まぁ日本とは文化が違うといえばそれまでなんですが、アメリカのお返し無し文化を取り入れられたらストレスが減るよな……と思ってネットの海をただよっていたら、なんと。内祝いには、本来「お返し」という意味はないのだとグーグル先生が言うではありませんか。

 いわく、内祝いとは慶事の喜びを身内にお裾分けする行為を意味していたそうです。家族やご近所さんに幸せのお裾分けギフトを配っていたのが、いつの間にかお返しを指すようになってしまったとのこと。みなさん、ご存じでしたか。わたしは恥ずかしながら知りませんでした。

 ごく最近広まった習慣なら、改めることもできるはず。わたしがこれから出産祝いを贈るときは「お返しいらないから。ほんと!」と念押しし、なんなら「アメリカではお返しなんかしないのよ」と米国かぶれを発揮して、内祝い一掃キャンペーンを実行していく所存です。わたし自身、2度の出産でたくさん贈り物をいただきました。2番目が生まれた時など、ベビー服を1枚も買わずに済んだくらいです。いただいた恵みに感謝し、内祝い一掃キャンペーンと共に別の機会に贈り物をすることが、いちばんのお返しになるんじゃないかと思っています。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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