「ネットの利用が広がり、個人的な体験談や、都合のいいことだけを書いた情報が医療関係者の目をくぐらずに広まっている中で、心ある医療者が声を上げ、診療ガイドラインなどを踏まえて、根拠のある医療情報をネット上で一般に向けて発信するのはとてもいい動きだと思います。ただ、忙しい医師たちが発信を続けていけるのかという心配もあります」(中山さん)

 先陣を切ってインスタで投稿を始めた小児科専門医の加納友環さん(36)は、例えばインスタでは1本の投稿に30分から2時間ほどかかるというが、「メリットがある」と言う。

「情報を再確認する中で新たな発見もありますし、説明を簡潔にまとめる訓練にもなります」

「#インスタ医療団」をつけて投稿する一人で、「外科医けいゆう」の名前で発信する京都大学大学院医学研究科の山本健人さん(34)も「医師として学びがあるから続けている」と話す。

 消化器外科医としてがん患者に接する中で、ネット上の誤った情報に翻弄される患者が多く、「自分の力でネットの状況を変えたい」と、17年5月にウェブサイトを開設した。

「いまはSNSで発信する医療者も増えてきて、それぞれの医師の考え方も知ることができ、専門外の分野の情報も得られます。また、患者さんがどんなことに困っているのか、どんなことが理解できないのかを知ることは診療に生かされています」

 山本さんは、ツイッターなどでつながる医師たちと、患者とが交流するイベント「SNSが作る新たな医療のカタチ」をこれまでに2度開催した。医師と患者の新しい関係を築こうとしている。

 インスタ医療団の投稿が始まり、インスタでも信頼性のある医療情報が上位に表示されるようになった。一方、インスタ医療団のハッシュタグをつけて、根拠のない医療情報を発信する人も後を絶たない。私たちが信頼性のある医療情報を手に入れるにはどうしたらいいのか。

 山本さんによると、情報を見分けるために二つのポイントがあるという。

 一つは「根拠が何か」ということ。例えば厚労省などの公的機関や学会などが出した情報を参照しているかどうか。また、たとえ医療者が書いている情報でも信頼できるとは限らず、複数の専門家の目があることも重要だという。

「ツイッターなどのSNSでは、たくさんの医師をフォローすると良いと思います」(山本さん)

 もう一つは「断定的な情報は疑え」だ。

「単純化された情報には注意したほうがいい。医療情報は細かい前提条件があって初めて意味をなすもので、基本的に断言できません。例えば同じがんでも進行具合や位置によって変わる。それなのに『がんが消える』のようなわかりやすい極論には気をつけたほうがいいです」(山本さん)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年4月29日号-2019年5月6日合併号より抜粋