「学校の教育方針に説得力を持たせるために、歴史の権威を利用したのでしょう。子どもの教育は家庭に責任があることを強調しているので、成立が予想される家庭教育支援法案の考え方とも一致しますね」

●「家庭の教育が衰退」

 実は最近、家庭心得が論壇で取り上げられることが増えていた。教育再生会議が道徳の教科化を検討し始めた2007年、当時自民党が発行していた「月刊自由民主」は、道徳教育と家庭の理想の関係を示すものとしてこの文書を挙げている。

 13年には、日本会議政策委員で親学推進協会会長の高橋史朗氏がインターネット番組「言論テレビ」に出演した際に紹介し、学級崩壊の原因は家庭の教育力が衰退しているからだと指摘している。番組のキャスターは、櫻井よしこ氏だ。

 家庭心得を教育方針として使う学校は他の地域にもあるが、特に多いのが埼玉県。現知事の上田清司氏の招聘(しょうへい)で、04年から4年間、高橋氏が埼玉県の教育委員を務めていたことと無関係ではないだろう。高橋氏は06年に私塾「埼玉師範塾」を立ち上げ、公立小中高教員の研修も行ってきた。研修の講師を務めた上田知事は教員たちに、

「アメリカ人は日本人の魂というか、ここ一番の戦闘能力、精神力を恐れた。教師にもそういうパワーがあったほうがいい」

 と話したこともあるという。埼玉師範塾はもうないが、薫陶を受けた教員たちはいまも教壇に立つ。前出の保護者は言う。

「戦前にこの文書が必要だったのは富国強兵のため。現代でもそれをしたい人がいるのではないかと不安になりました」

(編集部・竹下郁子)

AERA 2017年6月5日