結局、五輪効果だけで景気が劇的に上向く見込みはきわめて薄い。それでも開催は決まっている以上、チャンスを最大限に生かすにはどうすればいいかを考えるべきだろう。みずほ総研の矢野氏はこう提言する。

「何もしなくても五輪効果によって日本経済の成長力が大きく高まる、というわけではありません。私たちが試算で示した経済効果を現実に引き出すためには、政府の成長戦略と、それに呼応した民間の取り組みが重要となります」

●国や都の財政に打撃

 建設業などの人手不足解消には、子育て介護に追われる人が働きやすい環境を整え、外国人労働者の受け入れを拡大する、といった政策が選択肢になり得る。日本を訪れる外国人を増やすには、民泊や自動運転タクシーなどの新ビジネスを育て、受け入れ態勢の充実につなげるのも課題だ。

 規制緩和などによって経済の実力を地道に引き上げる成長戦略は「アベノミクス第3の矢」と位置付けられてきた。だが、これまでは日銀による金融緩和(第1の矢)と、政府予算の大盤振る舞い(第2の矢)ばかりが目立つ。規制緩和には既得権を持つ層の抵抗が根強く、成長戦略は遅々として進まない。この難題をクリアできなければ、ささやかな五輪効果でさえ絵に描いたになりかねない。

 もう一つ大きな問題がある。経済効果はタダでもたらされるわけではない。私たち納税者が支払う「コスト」のことも忘れてはいけない。

 東京五輪の開催費用は、都を中心に作った招致計画では7千億円ほど。その後、建設計画が迷走した新国立競技場といった施設整備費が膨らむなどした結果、2兆~3兆円規模になるといった見方も飛び交う。

 開催費用や、東京五輪にかこつけたインフラ整備の費用が大きく膨らめば、国や都の財政に打撃を与えかねない。特に1千兆円を超える借金を抱える国の財政事情は先進国で最悪レベルだ。日本総研の山田久チーフエコノミストはこう警告する。

「安倍政権が2度も消費増税を延期したことを見ても、財政規律の緩みがうかがえます。五輪をきっかけに財政危機が表面化する、といった最悪の事態は絶対に避けなければなりません」

(編集部・庄司将晃)

AERA 2016年8月29日号