事件が起きた障害者施設「津久井やまゆり園」。緑に囲まれた静かな場所が、救急車や消防車が行き交う壮絶な事件現場に一変した (c)朝日新聞社
事件が起きた障害者施設「津久井やまゆり園」。緑に囲まれた静かな場所が、救急車や消防車が行き交う壮絶な事件現場に一変した (c)朝日新聞社

 7月26日未明。異常極まりない卑劣な犯行により、障害者19人の命が奪われた。植松聖容疑者をこの凶行に駆り立てたものは何だったのか。

「戦後最大級」という被害規模。予告通りに職員を拘束し、障害者ばかりを標的にした「差別思想」を育んだ背景と原点は何なのか。

 神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の植松聖容疑者(26)が刃物で入所者に次々と襲いかかり、19人が死亡、26人がけがをした。

 現場のかつての地名は津久井郡相模湖町。東京都や山梨県の境にほど近く、山や湖、ダム湖に囲まれた緑深い山あいのまちだ。最寄りのJR中央線相模湖駅からは約2キロ離れており、植松容疑者の自宅はさらに500メートルほど奥にある。駅行きのバスも1時間に1本程度。徒歩圏内にコンビニもなく、車を持っていないと生活はかなり不便な立地だ。空気は澄み、騒音もなく、凶悪な事件の発生を予感させるような特性は全くない。しかし、たった一人の若者が、全てを壊した。

 筆者(大平)は事件記者として30年近く過ごし、全国で発生した殺人など凶悪事件を数多く取材してきたが、今回ほど結果の重大さと犯人の矮小さのアンバランスな事件は経験したことがない。彼がネットに自ら残した画像や動画、送検時に見せた幼児のような笑顔は、何かを達成しようと本気で取り組んだり我慢したりしたことがない人間にしか見えない。それが犯罪史上例がないほどの刃物による大量殺傷をした人物像と結びつかないのだ。

 植松容疑者は7月26日午前2時ごろ、園内東側の居住棟1階の窓をハンマーで割って室内に侵入、19歳の女性らを所持していた刃物で次々に襲った。この間、見つけた夜勤の職員を用意していた結束バンドで拘束。難を逃れた職員の110番通報で神奈川県警津久井署員が駆けつけたときに姿のなかった植松容疑者は同3時ごろ、血のついた刃物3本が入ったかばんを持って同署に出頭。犯行を認めたため殺人未遂などの容疑で逮捕し、送検時に容疑を殺人などに切り替えた。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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