●実力あるが方便 すしで口止め

 業務能力に問題はないが「箔(はく)付け」のために経歴の一部を偽る人もいる。外資系コンサルで営業を担当するリカさん(仮名)の上司は、まさにそのケースだ。

 10年ほど前に営業部長として採用されたC男(40代後半)は、大手広告会社Z社からの転職組という触れ込みだった。Z社出身らしく、エネルギッシュでパワフル。自ら新規クライアントの開拓もするので、営業部長としては申し分ない。人柄も良いので、人望もある。だが、リカさんは知人のZ社社員から「ある秘密」を聞いてしまう。

「C男さんは、たしかにクリエイティブ職でZ社のCM制作に携わっていたようですが、社員ではなく制作会社の社員としてでした。でも、CM制作の現場には精通していて、知識も豊富。人脈もある。面接では、それをいかんなくアピールして、採用されたそうです」

 会社側はZ社に業務実績の確認をしたようだが、「有能な広告マンだった」という返答に、社員として在籍していたものと思い込んでしまったという。

「C男さんは慕われているし、“口止め料”として、この事実を知る一部社員には銀座で高級すしをおごってくれたので、悪く思っている人はいませんけどね(笑)」(リカさん)

 前出の松本さんは、経歴詐称する人の傾向をこう分析する。

「いかにもその業界的な雰囲気を醸し出している人は要注意です。たとえば、外資系金融といっても、ストライプの細身のスーツにチーフを差して、髪をなびかせている社員なんてほとんどいない。詐称する人は過剰にイメージにこだわり、ハッタリがばれないように、違う業界の似たような職種に移る傾向があります。そして、ウソがばれないように過剰なまでに人当たりがいい。つまり、出来過ぎた人には注意が必要ということです」

 SNSで自分を“盛る”のが日常になっている中、小さなウソが徐々に大きなウソになっていくのか。しかし、今の川上氏の姿を見ればわかるように、経歴詐称の行きつく先が「地獄」であることは、言うまでもない。

 あなたの会社にも、いませんか。

AERA 2016年4月4日号