山岳気象予報士猪熊隆之さん(45)事務所は長野県茅野市の、八ヶ岳を望む高台にある。ここで日本全国や海外の山の天気予報を行う(撮影/今井明子)
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山岳気象予報士
猪熊隆之さん(45)
事務所は長野県茅野市の、八ヶ岳を望む高台にある。ここで日本全国や海外の山の天気予報を行う(撮影/今井明子)

 実は人気が高い「気象予報士」の資格。難関資格は取得後どのように活かされるのか。ある人は、アウトドアの「命綱」になっている。

 テレビの天気予報でおなじみの気象予報士。「文系だけど、天気には興味がある」という人も多く、資格としても人気がある。現在、全国の気象予報士試験合格者の数は9843人。合格率は、2016年1月の試験で4.5%という難関だ。受験には年齢制限がなく、何度も受験し、数年かけて合格することも珍しくはない。

 資格取得後に気象キャスターの仕事についている人はほんのひとにぎり。13年度に気象庁が調べたところ、テレビ局などで働く気象予報士は、全体の約4.5%だった。では、ほかの気象予報士は、いったいどんな仕事をしているのだろうか。

 山登りをする人たちに向けて天気予報を行うのが、山岳気象予報士の猪隆之さん(45)。アウトドアスポーツの世界では、ひとたび悪天候に遭遇すれば、命を落とすこともあるため、天気予報は命綱のような存在だ。

 猪熊さんが経営する山岳専門気象会社「ヤマテン」では、日本全国18山域、59山の天気、気温、風向・風速を予報する「山の天気予報」という有料天気予報サービスをインターネットで配信している。契約している登山家や、登山ツアーを企画する旅行会社などからの問い合わせにも随時対応する。

 猪熊さん自身の登山の経験を生かし、天気予報の問い合わせには、「この天気だと予定を変更してこちらのルートを通ったほうがよいでしょう」など、安全に登れるようなアドバイスも行う。

 猪熊さんは、今まで海外の高所天気予報全59件のうち、58件を的中させた。三浦雄一郎さんや竹内洋岳さんなど、名だたる登山家も、この予報に信頼を寄せている。

「『無事下山しました』という連絡をいただくときが、この仕事をしていて一番うれしい瞬間ですね。一緒に登らせてもらったような気分になります」

(ライター・今井明子)

AERA 2016年3月28日号より抜粋