「バカなヤツを相手にしても仕方ないと思ってます。でも、そう割り切らないと、派遣ではやっていけないです」

 派遣法は施行以来、規制緩和の流れの中で幾度となく法改正されてきた。派遣業務の原則自由化(99年)、製造業への派遣解禁(04年)……。その都度、政府は「多様な働き方に対応できる」とうたったが、実態は企業の思いのままに低コストの労働力を調達できる歪んだ労働市場を生んだのではなかったか。昨年9月には、中高年の派遣労働者をさらに追いつめる改正派遣法が成立、施行された。

 今回の法改正最大のポイントは、業務内容を問わずすべての派遣社員が同じ職場で働ける期間の上限が「最長3年」になったことだ。それまで秘書、通訳、財務処理などは「専門26業務」と呼ばれ、派遣社員として同じ職場で期限なく働くことができたが、それ以外の業務と同様、最長3年になった。同じ派遣先でも違う部署に移らなければ、4年目以降は就業することができない。

●3年後の雇い止め通告

 これにより派遣社員は、正社員への道が狭まっただけでなく、失業して無職になってしまうリスクが高まった。求人の少ない中高年の派遣社員にとっては「死刑宣告」にも等しい。法改正を奇貨とした「派遣切り」の動きも出始めている。

「私がホームレスになろうが、行き倒れになろうが、餓死しようが、会社はそんなことおかまいなしってことですよね」

 都内に住む女性Dさん(56)は怒りをあらわにする。16年間働いてきた派遣先から、3年後の雇い止めを通告されたのだ。

 26歳で離婚し、シングルマザーとして2人の子どもを育ててきた。00年に派遣会社に登録すると、都内の大手コンサルティング会社に派遣された。業務内容は、専門26業務の一つ「事務用機器操作」だった。

 派遣先とは3カ月単位の契約を繰り返し更新し、ずっと同じ部署で働いた。今の時給は1830円と、16年前から100円アップしただけ。月収は手取り22万円程度で、ボーナスはない。月1万円近い定期券代は自腹を切っている。幸い実家に身を寄せているので家賃はかからないが、老いた母(86)と契約社員の娘(32)と暮らしているので、生活はぎりぎりだ。

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