アベノミクスで上向いた、と言われてきた日本経済。
「消費増税ショック」からの回復が遅れるなか、先行きへの不安が広がっている。(編集部・庄司将晃)
株高と公共事業の大盤振る舞いによる「プチバブル」に支えられた日本経済の足元がふらついている。本誌で「ぐっちーさん ここだけの話」を連載中の山口正洋さんは言い切る。
「アベノミクスは蜃気楼だ」
この春、景気は急降下した。今月8日に公表された4~6月期の国内総生産(GDP)2次速報の内容は、さんざんだった。実質GDPの成長率は年率換算で前期比マイナス7.1%。市場関係者は、8月中旬の1次速報の段階で「想定外の落ち込み」「東日本大震災のとき以来」と騒いでいたが、実はもっと景気が悪かったというのだ。
そんな経済統計が出ているというのに、安倍政権はどこ吹く風。内閣支持率がまだ高いからなのだろうか、GDP2次速報発表直後の記者会見で、菅義偉官房長官は、
「景気は緩やかな回復基調が続いている。これまで示してきた認識に変わりはない」
と強気の姿勢を崩さなかった。ただ、これまで同じように強気だった民間の経済専門家たちの見方も、明らかに変わってきた。安倍政権の幹部たちの「日本経済は基本的に好調だ。4月の消費税率引き上げのあおりで一時的にブレーキがかかるが、その後は再び加速する」という説明がおおむね支持されてきたが、ここへきて、
「今の景気の落ち込みは増税の影響だけでは説明できない」(大手生保のエコノミスト)
という見方が広がっている。動揺の原因は、GDPの速報だけではない。景気の状況を示すほかの経済指標も7月以降、パッとしないのだ。
●物価が上がり賃上げ実感なし
最大の問題は、多くの働き手の稼ぎが実際には増えておらず、買い控えの動きが止まらないことだ。
「安倍さんが首相になってから会社の仕事がどっと増えて給料も上がった。でも、苦しかった暮らしがちょっとは楽になった、というくらいですよ」
栃木県内の建設会社員(59)は、こう言って苦笑いする。ボーナスは5年前にはバブル時代の2割ほどまで落ち込んでいたが、最近は7、8割に戻ってきた。ここ2年は、わずかだが基本給のベースアップ(ベア)もあった。
「友達とゴルフに行ったり飲み食いしたり、月に4万~5万円使うんだけど、給料が増えたからって妻が小遣いを増やしてくれる雰囲気はないね。そんな場合じゃないってさ」
働き手の収入は、額面で見れば増えている。安倍晋三首相は昨年、経団連をはじめとする経済3団体のトップに対して、異例の賃上げ要請をした。政府の強い“圧力”を受けた経営者たちは、重い腰を上げ、大手を中心に応じる企業が続出。7月の現金給与総額は36万9846円となり、前年同月を2.6%上回って、97年1月以来の高い伸び率を記録した。
それなのに、賃金アップの実感がないのは、モノの値段がそれ以上に上がっているからだ。消費者物価指数は4月、前年同月比3.2%増で、バブル期以来の高い伸び率を示した。その後も7月まで3%台の伸びが続く。その原因としては、4月に消費税率が引き上げられたこともあるが、安倍政権と日本銀行のもくろみ通りに円安が進み、輸入品の価格が上がっていることが大きい。