医療崩壊を招く要因の一つが重症化だ。厚生労働省によると、重症化率は50代以下は0.3%と低いが、60代以上は8.5%。70代の重症化リスクは30代の47倍にもなる。
もう一つの要因は、基礎疾患。特に慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)や腎臓病、糖尿病、高血圧、心臓病、肥満でリスクが上がる。昨年末に53歳で新型コロナで亡くなった立憲民主党の羽田雄一郎参議院議員も、糖尿病や高脂血症といった基礎疾患があったという。
「なぜ基礎疾患や高齢が重症化のリスクになるのか。“血栓の形成”と“免疫の暴走”という二つの現象が関わっていると考えられています」
と話すのは、感染症に詳しい関西福祉大学教授の勝田吉彰医師。血栓とは血液の塊のことで、かさぶたのようなもの。感染して炎症が起こると血液が固まりやすくなり、血栓ができやすい。しかも新型コロナは血管の内側の内皮細胞にも感染するため、余計に血栓ができやすいのだという。
「血栓で血管が詰まると、そこから先には血液が流れないので、栄養も酸素も途絶えてしまう。その結果、組織が壊死(えし)するなどで機能低下に陥ります。特に基礎疾患がある人や高齢者の血管は動脈硬化が進んで血管の内皮が荒れているので、血栓ができやすい。重症化しやすいのです」(勝田教授)
免疫の暴走について、「T細胞」に注目するのが、前出の宮坂医師だ。
免疫には生まれたときから備わっている自然免疫と、病原菌にさらされてできる獲得免疫がある。T細胞は後者で、ウイルスに感染した細胞を殺したり、ウイルスが増えるのを抑える抗体をつくるよう指示したりする。我々の免疫には欠かせない存在だ。
「実は国内外のいくつかの研究で、重症化した人ではこのT細胞に異常が見られることがわかってきたのです」(宮坂医師)
例えば、海外の研究では、軽症者の体内で活性化していたのは反応性の強いT細胞だったが、重症者では反応性の弱いT細胞が活性化していた。このためウイルスが排除されずに増殖し、重症化につながった可能性があるという。
そして、このT細胞に影響を与えているのが、肥満や糖尿病などの基礎疾患だ。宮坂医師は言う。
「基礎疾患がある人の体内では常に小さな炎症が起きていて、炎症性サイトカインという物質が異常につくられています。これがT細胞に過剰に作用すると、強いT細胞が減って弱いT細胞が増えるなどの問題が起こります。免疫システムが狂うので重症化しやすいだけでなく、新型コロナにもかかりやすくなるのです」
幸いなことに、生活習慣の改善や薬などで持病をコントロールできれば、炎症が鎮まって炎症性サイトカインは減り、正常な免疫に戻るという。感染対策と同様に気にかけていただきたい。(本誌・山内リカ)
※週刊朝日 2021年1月22日号