ベーシックインカムと並んで目指しているのは直接民主主義だ。政治家は選挙の時だけ有権者に顔を向けるが、当選すると民意を無視しがちだ。代議制は有権者の意思が正しく反映されないとして、ネットなどを通じて重要課題は国民に判断を委ねる直接民主制こそが究極の姿だ、という。

 五つ星運動ではネット投票で候補者を選び、当選しても任期は二期まで。議員の報酬は平均賃金の水準ににとどめる。余分に支給された歳費は、マイクロクレジット(庶民向け少額融資)の資金などに回される。

 組閣にあたって直接民主主義担当大臣を設けた。担当相になったリカルド・フラカーロ議員は、以前こう指摘している。

「政治は素人に無理という人がいるが、イタリアの政治を腐敗させたのはプロの政治家だ。これほどまで誤りをつづけてきたのだから、市民に政治を返してもらおう。市民も判断を誤ることはある。しかし、反省し自己修正する力もある。市民の声に従い、経験を積みながら前進する。それが直接民主主義だ」

 ベッペも今回の講演で、「市民には問題を解決する力がある。生活に関わる全ては政治と無縁ではない。身の回りの課題を考え、語り合うことから政治は始まる」と訴えた。

「日本では政治を語ることをはばかる空気がある」という質問が出ると、ベッペは手の持った飲料ボトルを示した。

「ペットボトルの水はガソリンより高価だ。なぜだ。地下からくみ上げて精製し、時には戦争まで起こして手に入れる石油より、ペットボトルの水が高いのはなぜだろう」

 高価な水を買わず水道水が飲めればいいが、そうならないのはなぜか。生活に不可欠な水について、行政はどう取り組んでいるのか。そんな風に思いを巡らせれば政治は身近な話題になる、と語った。
(ジャーナリスト 山田厚史)
※週刊朝日オンライン限定記事