これを見て、「エリートは裕福だから、歯にもお金をかけられるのだろう」と思うかもしれません。しかし私はそれだけが理由ではないと思います。なぜなら、仕事やつきあいで超多忙な彼らにとって、歯科に通う時間をつくることはとても大変なはずだからです。
それに、お金があるのだったら、「歯が悪くなってから、インプラントなど費用の高い治療を受ければいい」という考え方もできるはずです。
しかし、歯を残すためには冒頭でお話ししたように、早期受診と定期検診が欠かせません。私が思うに、エリートの人は「先を読む力」があって、自分の健康についても、いま歯を大切にしておかないと将来どうなるか、予測できているのではないでしょうか。
歯が悪くなってから治療していると、医療費も増え、全身の健康にも悪影響が出る可能性がありますが、予防のために歯科医にかかっていれば、そのときは多少の医療費や時間がかかっても人生全体でみると大きなメリットがあるといえます。その「先を読む力」と忙しい中、時間をつくって継続して通院する「自己管理能力の高さ」が関係していると私は思います。
■エリートは歯の健康維持のために投資
歯の病気の中でも特に歯周病は歯を失う原因になるだけでなく、全身の病気の原因や悪化因子になることがわかっており、「全身病」といわれてきています。具体的には糖尿病や循環器の病気(狭心症や心筋梗塞)、骨粗しょう症、リウマチや誤嚥(ごえん)性肺炎などで、ほかにもアルツハイマー病やED(勃起不全)などとのかかわりが指摘されています。
しかも、歯周病の予防や早期発見・治療によって、生涯にわたる医療費を抑えられる可能性は高いのです。
自動車部品メーカー、デンソーの健康保険組合が被保険者の医療費を分析した調査では、歯周病にかかっている人はかかっていない人よりも歯科だけでなく、医科(歯科以外の病気)の1人あたりの医療費も年間平均1万5800円多くかかっているという結果が出ています(60歳以上になるとこの差は3万円前後まで広がります)。
こうした背景からデンソーでは定期的な歯科検診を推奨。その後、定期的な歯科検診を実施した事業所とそうでない事業所を比較した調査が行われたのですが、その結果、実施した事業所では医療費が5年間にわたって最大23%も減少したのに対し、実施しなかった事業所では24%増加していることがわかったのです。
情報収集能力の高いエリートはこのように、歯の健康維持のために投資したほうが、将来的にその見返りが大きいことをよく理解しているのではないでしょうか。さらに自己管理能力が高いので、多忙なスケジュールをやりくりして、きちんと予約日に受診できるのだと考えられるのです。
エリートを目指しているあなた、まずは歯を大切にすることから始めてみてはいかがでしょう。
◯若林健史(わかばやし・けんじ)
歯科医師。若林歯科医院院長。1982年、日本大学松戸歯学部卒業。89年、東京都渋谷区代官山にて開業。2014年、代官山から恵比寿南に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事、日本臨床歯周病学会副理事長を務める。歯周病専門医・指導医として、歯科医師向けや一般市民向けの講演多数。テレビCMにも出演
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