長期政権が終わりを迎える。安倍政権が何を残したのか、女性活躍・多様性の観点からエッセイストの小島慶子さんが振り返る。AERA 2020年9月14日号から。
【写真】自民党の猪口邦子・女性活躍推進本部長から提言書を受け取る安倍首相
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「日本の子どもの精神的な幸福度は先進38カ国中37位」。9月3日に国連児童基金(ユニセフ)が発表した報告書の結果は深刻でした。背景にはいじめや家庭不和があります。近年、日本では自殺者総数が減る一方で10代では増加し、30代までの死因の1位を占めます。そんな国は先進7カ国で他にありません。子どもたちは、大人の社会を映す鏡。制度の取り組みが進んでも、異質なものや少数者に不寛容な空気が変わらなければ、生きづらさはなくなりません。
2019年の電通の調査では、日本でLGBTに該当する人は8.9%を占めます。自民党は16年、安倍政権の「一億総活躍社会」の取り組みとして「性的指向・性自認に関する特命委員会」を設置。“カムアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会”を目指し、“性的指向や性自認に関する理解が進めば差別は自ずとなくなっていく”という立場をとっています。しかし、同委員会の副委員長・平沢勝栄衆院議員は昨年1月「この人たち(LGBT)ばかりになったら国がつぶれてしまう」と発言。18年の杉田水脈衆院議員の「(同性カップルは)生産性がない」発言同様、いまだ謝罪・撤回していません。当事者団体からは、性的指向・性自認に基づく差別を禁止する法律の制定や同性婚法制化の要望があがっていますが、自民党はいずれも後ろ向きです。
■女性と子どもへの支援
安倍政権は、今後5年間で最大34万5千人の外国人労働者の受け入れを決めました。19年末には総人口に占める外国人の割合は2%を超える293万人。単なる労働力ではなく、同じ社会に生きる人として迎えることが重要です。多くの課題の中でも急務は日本語学習支援です。大人も子どもも、言葉の壁があっては学習や就労に困難が伴い、自立できません。先日、茂木敏充外務大臣が外国人記者に対し「日本語わかりますか?」と侮蔑的な態度を取って批判されましたが、非母語話者を排除するのは深刻な差別です。こうした文化が変わらなければ分断が深まる一方でしょう。