「タイガーマスク運動が広がって以降、よりいっそう児童養護施設を回るようにしていました。そこで痛感したのは、施設内の生活支援ではなく自立支援のほうが必要だということ。『自立のケアをお願いしたい』と、実際に何度も現場の声を聞きました」
車社会の群馬では、車は一人1台が当たり前。児童養護施設や里親家庭を巣立った若者が独り立ちするには、車はもちろん運転免許の取得も必要になる。教習所に通おうとしても、「お金がない」とつまずいてしまう。
「一個人に言われても難しい。『行政を動かして仕組みを作らないといけない』と考え始めました。そこで都道府県問わず、子どもの自立支援をしている自治体を探して、首長に会いに行きました。どこもスムーズに会うことができたのは、やはり『タイガーマスク運動の人』という実績があったからです」

子どもたちの笑顔が返礼品
2016年には山本龍・前橋市長(当時)に面会。それまで県内で運転免許取得のために出ていた補助金に加えて、不足分の支援、さらに新生活を迎えるにあたっての準備金の支給を交渉した。新生活に必要な試算額は約42万円、国や県からの援助は27万円。免許取得の際の自己負担額は、市と教習所との連携が図られてゼロになり、新生活を迎えるための不足分15万円は新生活準備支度金として支給されるようになった。
「タイガーマスク運動支援プロジェクトという形で、交渉の3カ月後には支援をスタートすることができました。税金を使うことへの反発も予想して、新生活準備支度金についてはふるさと納税の仕組みを利用し、全国から募りました。物質的な見返りはないが、子どもたちの笑顔が返礼品です、と。この取り組みは賭けでしたが、毎年1000万円以上が積み立てられるようになり、昨年度、寄付額が1億円を突破したんです。コロナ禍を経て、今は20万円を支給しています。社会が賛同してくれれば状況は大きく変えられるという手ごたえがありました」