東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 衆院の東京15区補選が告示された。立憲民主と共産相乗りの酒井菜摘氏が最有力といわれるが、筆者は2人の候補に注目している。

 ひとりは乙武洋匡氏。『五体不満足』の著者。8年前の参院選は自民候補になりかけたが不倫報道で出馬見送りとなった。2年前の参院選では無所属で落選。3度目の政界挑戦となる今回も無所属だ。

 ところがこの無所属がじつにわかりにくい。氏は3月末に、小池百合子都知事が主導する政治団体「ファーストの会」の副代表に就任した。記者会見でも会場には小池氏の顔写真が並んでいた。ふつうに考えればファーストの会所属だ。

 ほか直前まで自民が推薦を検討し、国民民主が自民推薦なら推薦しないと釘を刺すという一幕もあった。乙武氏は中道リベラルで知られる。既存の対立にとらわれない政策を訴えるつもりだっただろうが、最初から古い政治に足を取られた印象だ。有権者がどう判断するか。

 もうひとりは日本保守党の飯山陽氏。氏はイスラム研究者でユーチューバーとして活躍している。所属する保守党は昨年9月に作家の百田尚樹氏の呼びかけで結成された政治団体だ。SNSには熱狂的な支持者がいる。4月16日に行われたネット討論会でもコメント欄は氏への応援で溢れていた。

 ネットの影響力を過大評価するのは禁物だ。とはいえ今後も保守党が成長を続ける可能性は高い。前回参院選でガーシーこと東谷義和氏が30万票近くを集めたことは人々に驚きを与えた。保守党も同じうねりを起こせるのか。その点を占ううえで得票が注目される。

 乙武氏と飯山氏はじつは同じ1976年生まれである。しかし選挙戦略は対照的だ。乙武氏は20代から有名人だった。政界とマスコミへのパイプはたいへん太い。しかしそのためか多方面への配慮で雁字搦めになっているようにも見える。他方で飯山氏は最近までほぼ無名だった。新興勢力のため主張も立場もわかりやすい。

 対照的なキャリアの2人が知名度と「わかりやすさ」を軸に戦ったとき、どのような数字が出るか。結果から今後の政治が見えてこよう。

AERA 2024年4月29日号-5月6日合併号

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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