聴覚障害(ろう難聴)者が職場で健聴者の理解を得るのは容易ではない。障害者が困難を越えて働き続けられるよう支援する新たな取り組みを追った。
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聞こえない、聞こえにくい。聴覚が不自由な「ろう難聴者」のそんな悩みは、健聴者にとって理解しにくい。
たとえば声の大きさが同じでも、単語やフレーズによって聞き取りにくいこともある。細かなコミュニケーションが求められることが多い仕事の現場では、ろう難聴者が周囲と意思疎通を図れないことに神経をすり減らし、せっかく勤め始めても離職してしまうケースが後を絶たないという。
きめ細かな就労支援でこのような現状を打破しようと、「大阪ろう就労支援センター」(大阪市中央区)が設立されて半年が経った。
民間企業に雇用されている障害者は14年連続で過去最高を更新し、昨年6月時点で49万6千人。障害者雇用促進法の改正で、今年4月からは企業に義務付けられている雇用労働者に占める障害者の割合が2%から2.2%に引き上げられた。障害者への就労支援はハローワークや地域障害者職業センター、地域の障害者就業・生活支援センターなどが手がけている。
ただ、大阪ろう就労支援センターのように障害に応じた就労移行や自立訓練に特化して支援する事業は全国的にも珍しい。厚生労働省でも統計にまとめられるほどの調査はなく、実態が把握できていないという。
同センターを記者が訪れたのは、体温を上回るような酷暑の日だった。新島浩章さん(27)は、手話のできる学生スタッフの助けを借りながら、表計算のドリルなどでパソコンのスキルアップに努めていた。
新島さんは高校でインテリアを学び、卒業後は印刷関係の会社に就職したが、1年で退職した。印刷機械に入力する計算が苦手だったのと、同僚や先輩と十分にコミュニケーションが取れず、人間関係をうまく構築できなかったのが原因だった。
その後は通所施設でパン作りなどをしながら自動車の運転免許を取得。次に運送会社に就職して荷物の集荷作業に従事したが、重い荷物を扱う深夜労働がこたえて腰を傷め、3年ほどで仕事を続けられなくなった。
手話通訳者の協力を得て、新島さんの話を聞いた。