稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年、愛知県生まれ。元朝日新聞記者。著書に『魂の退社』(東洋経済新報社)など。電気代月150円生活がもたらした革命を記した魂の新刊『寂しい生活』(同)も刊行
我が食卓。スーパーに行かずに作ってみました。やればできる(写真:本人提供)
我が食卓。スーパーに行かずに作ってみました。やればできる(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さんの食卓の写真はこちら「スーパーに行かずに作ってみました。」】

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 数カ月前、わが近所のスーパーで「自動支払機」が導入されました。レジで合計金額が出たら、指定された番号の支払機のところへ行き、画面の指示に従って自分でお金を投入。お釣りとレシートを受け取るというものです。なるほど人口減少による人手不足は東京でも確実に進行しているのだと実感します。

 でもこれでサクサク事が運ぶかというと、そうもいかないのでした。レジで計算は終わってもしばし待たされることがあるのです。ふと見ると、機械の操作に手間取るお年寄りの姿が。レジの人が助け舟を出すのですが、ただでさえ慌てているお年寄りはなかなか指示が耳に入らず戸惑っています。

 そんな様子を見ていると、なんだかやるせない気持ちになってくる。

 年をとれば誰だって、新しいことを覚えるのは難しくなる。それは努力不足でもなければ恥ずかしいことでも何でもありません。それなのに、ただ日々の買い物をするだけで、まごまごさせられ、自分は世の中から取り残されているのだと公衆の面前で感じなきゃいけないなんて、なんと残酷なことでしょう。それがイヤで買い物に行きたくなくなる人だっていると思うのです。ますます高齢化が進む世の中で、それは決して軽視できないことではないでしょうか。

 買い物とは、世の中とつながる大切な営みです。家から外へ出て、自然の空気を感じながらてくてく歩き、店でいろんな商品を見て、欲しいものを吟味して選び、店の人にお金を払って商品を受け取る。その何げない一連のことが、どれほど人のつながりと健康に役立っていることか。

 そう考えたら、ものを売る人の責任は少なくないものがある。

 効率化も大事ですが、なくしてはいけないものもあるのではないでしょうか。誰のために、何のために商品を売るのか。それは究極のところ人の幸せのためなのだと思います。もし客を不幸にする効率化ならば、それを本末転倒という。

AERA  2018年4月23日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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