「五輪の囚人」と呼ばれる中国の人権活動家の息子が日本に留学している。日本で法律を学び、中国社会を変える人権派弁護士になるのが、将来の夢だ。

 ロシア国境に近い中国黒竜江省チャムス市出身の留学生、楊卓さん(21)は昨年12月に来日。東京都内の新聞販売店の寮に住み、新聞配達のアルバイトをしながら、日本語学校に通う。来春の大学入学を目指して猛勉強する毎日だ。

 もう5年以上会っていない父親の楊春林さんは、2008年に開催された北京五輪を前に「要人権、不要奥運(五輪より人権を)」と訴え、国家政権転覆扇動罪で有罪判決を受けた。海外の人権団体は春林さんを「五輪の囚人」と呼び、中国政府を厳しく批判。今年7月、春林さんは5年の刑期を満了して出所したが、当局による監視が続く。

 春林さんは拘置所で、何日間もベッドに手足を鎖で縛りつけられたまま食事や排泄を強いられたという。08年3月の判決公判で、被告席の春林さんは手錠と足かせをはめられ、振り返ることも許されなかった。「息子にしっかり勉強するよう伝えてくれ」と必死に叫んだが、係官がスタンガンを突きつけて言葉をさえぎった。傍聴席にいた卓さんの胸には、その様子が今も焼き付いている。

 中国では、人権活動家の家族が当局から報復を受けることが少なくない。身の安全の確保と勉強に打ち込むため、日本への留学を決意した。「ドラゴンボール」などのアニメが大好きで、日本は憧れの国だった。

 大学に合格したら、法律を勉強したい。そして、卒業後は中国に帰り、中国の法律も勉強して、弱者の側に立つ弁護士になるのが夢だ。

「父のように勇気を持って国をよくしようとする人が中国のために必要です。これからは私のような若者の力が不可欠と信じています」

AERA 2012年10月29日号