『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか? (星海社新書)』鷹鳥屋 明 星海社
『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか? (星海社新書)』鷹鳥屋 明 星海社

 みなさんは「中東」と聞いて、どのようなイメージが思い浮かびますか? ラクダに乗ったアラブの王族? それともテロリストのいる危険地帯でしょうか。

 私たちがそんなふうに曖昧にとらえている中東世界について、そこで暮らす人々の様子をときに面白おかしく、ときにシリアスに伝えているのが、今回紹介する『私はアラブの王様たちとどのように付き合っているのか?』です。

 著者は日本人サラリーマンでありながら、SNSでアラブ人約10万人のフォロワーを持つ鷹鳥屋 明さん。彼は「シャムス-カマル・ビン・カブサ(炊き込みご飯の息子、太陽と月)」のあだ名で親しまれており、これは中東を訪れるたびに食べていた肉入りのスパイス炊き込みごはん「カブサ」から由来するそうです。

 鷹鳥屋さんはあるとき、日本の外務省とサウジアラビア政府組織が募集していた「日本サウジ青年交流団」に応募してサウジアラビアに派遣されます。これをきっかけに中東への関心をどんどん深めていった鷹鳥屋さんは、帰国後のある行動で一躍有名になります。

 それは、東京で大雪が降った際に、鷹鳥屋さんがサウジアラビアの民族衣装を着て浅草の雪の中を猛スピードで滑って遊ぶ動画をインスタグラムに投稿したことです。これが大バズり! 投稿を続けていくたびに中東のフォロワーがうなぎ登りに増えていったのです。

 こうして中東でいちばん有名な日本人となった鷹鳥屋さんは、さまざまなイベントやビジネスの場に呼ばれるようになります。ときには、日本ではありえないような体験をすることも......。そのひとつが同書の冒頭に出てくるエピソードです。

 2018年、「サウジアラビアの王子が、あなたに会いたいと言っている」というメールが突然、鷹鳥屋さんのもとに届きました。最初はいぶかしく思ったものの、送られてきた航空券でモロッコへ赴いたところ、本当にサウジアラビアの王子と対面することに......!

 日本好きな王子がSNSを見て鷹鳥屋さんに興味を持ち、語り合いたいと思って呼んだのだそうです。毎日、王子と別荘や郊外で遊び倒す夢のような数日間を過ごした鷹鳥屋さん。王子に日本のアニメ『UFOロボ グレンダイザー』のフィギュアをプレゼントしたところ、非常に喜んでもらえたといいます。

 このように、アニメやマンガ好きなオタクの鷹鳥屋さんが、日本のエンタメ好きな中東の人たちと作品について熱く語り合い、心を通わせる姿は読んでいてほっこりさせられます。中東では日本のアニメ作品が広く親しまれており、かつては『UFOロボ グレンダイザー』や『キャプテン翼』、『進撃の巨人』、『ONE PIECE』などが、現在は『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などが流行っているのだとか。BL(ボーイズラブ)に理解のある人も増えていて、クローズドな環境で同人即売会が行われているというから驚きます。

 ほかにも、王族や財閥について、日本との関係性、女性の地位や雇用など、中東のリアルな情報が得られる同書。鷹鳥屋さんは「リスクを覚悟すればアラブは魅力にあふれている」と記します。ニュースから見える姿とはまた違う中東の一面を知りたい方は、一読してみてはいかがでしょうか?

[文・鷺ノ宮やよい]