『動物の値段 (角川文庫)』白輪 剛史 角川書店(角川グループパブリッシング)
『動物の値段 (角川文庫)』白輪 剛史 角川書店(角川グループパブリッシング)

 いきなりで恐縮だが、みなさんは動物園で飼育されている動物を見て「飼ってみたい」と考えたことはないだろうか。とはいえイヌやネコなど飼い慣れたペットとは違い、飼育方法はおろか"いくらで買えるのか"すらイメージがつかない人が多いはずだ。

 そんな動物たちの"気になる価格"に注目したのが、今回ご紹介する『動物の値段』(KADOKAWA)。著者の白輪剛史氏は体験型動物園「iZoo」の園長を務めており、同書は白輪氏ならではの視点で"動物商"について言及されている。

「言葉は悪いがお金さえあればほとんどの動物を買える。正直、エキゾチックアニマルマニアの間では動物の価値は価格で決まっている。動物園を経営すれば入手できない動物は多分ない。でも"買える"ことと動物が"飼える"ことは違う。動物を飼う・飼育することは、お金さえあればできるというものではない。もちろんお金がなくては動物も買えないし飼えない」(同書より)

 まずは動物園の人気者・ライオン(アフリカライオン)の値段から確認してみよう。「百獣の王」の異名を持つ人気者だけにさぞかし"お高い"のかと思いきや、実は赤ちゃんなら"45万円"と意外に安い。また赤ちゃんライオンは言うなれば"単なる大きなネコ"と同じであり、大人のライオンに比べて輸送費用を抑えられるという利点もある。

 とはいえライオンの赤ちゃんがそのままのサイズでいるはずもなく、白輪氏いわくかわいい姿を見せてくれるのはほんの数カ月間。次第に猛獣の片鱗を見せ始め、誰もが知る立派なライオンの姿へと成長していく。それでも白輪氏は"本気で購入を考えている人"に向けて、以下のアドバイスを送る。

「ぜひとも最寄りの動物商にお申し付けください。諦めずにじっくり探せば、(最安値で)45万円ぐらいでお求めいただけるはずだ。

ただし、ライオンを買う前には、『財力!』『体力!』『気力!』。この3点セットを十二分にご確保いただけなければ無理。飼うためには気合いと根性が必要な動物なのだ」(同書より)

 ちなみに、赤ちゃんライオンよりも安いのがツキノワグマ。白輪氏によれば1頭"30万円くらい"で、人里に出てきてしまったクマたちがペットとして飼育されるケースがあるという(特定動物として都道府県知事の許可が必要)。もちろんクマも猛獣であり、飼育は容易ではない。クマには登ったり隠れたりする運動場が必要で、ノイローゼになると同じ場所を行ったり来たりするようになってしまう。

「好奇心旺盛なクマをいかに退屈させずに生活させるかという生活面の向上に力を入れ、このような飼育ノイローゼを防がなければならない。楽しい道具を取り入れたり、餌を与える時に、クマが少し工夫や苦労をしなければ餌を手に入れられないような仕組みを作ったりするといいだろう。

クマを飼育ノイローゼにすることなく飼えれば、あなたはどんな動物でも飼えるようになるはずだ」(同書より)

 ライオン、クマと続けて大型動物に注目したが、反対に人よりも小さい動物の値段はどれほどなのだろう。たとえば水族館の人気者・ペンギンは種類によって値段が大きく異なるようで、一番安いのが南アフリカ原産のケープペンギン。といっても相場は"80万円"で、赤ちゃんライオンやクマよりも高い。さらにサイズの大きいキングペンギンに至っては1羽"800万円くらい"になるというのだから驚かされる。

 金額面では"レンタルで3億円"するジャイアントパンダもさることながら、水族館のプールを悠々と泳ぐシャチも負けてはいない。その額なんと"1億円"で、取引は保護団体の強烈な抗議行動を招かないよう秘密裏に進められるそうだ。許可が下りればゲリラ作戦的に輸送へと移るが、船ではなく国際ルールに従い航空貨物で"空輸"するという。

「そんな数々の苦難の末に1億円という金額がつくシャチの取引なわけだが、気になる内訳はというと、半分の5000万円がシャチ代と運賃・経費で、残り5000万円が動物屋の儲け。『え! そんなにもらえるの!?』と思う方もおられるかもしれないが、シャチの売買は、正直いって5000万円でも少ないと思うくらいの本当に危険でイヤな仕事なのだ」(同書より)

 潤沢な資金が手元にあっても動物を幸せにできるかどうかは別の話であり、それは動物園の飼育動物に限らず愛玩動物にも当てはまること。また、動物の値段が上がることがあれば、それだけ該当種の希少性が増した=数が減少した証拠なのかもしれない。同書に目を通す際は動物の値段をただ知るだけでなく、なぜその値段に設定されているかという点にも注目してみてはいかがだろうか。