『早く絶版になってほしい #駄言辞典』日経xwoman 日経BP
『早く絶版になってほしい #駄言辞典』日経xwoman 日経BP

 2020年11月、日本経済新聞は紙面である呼びかけをしました。それは以下のとおり。

「心を打つ『名言』があるように、心をくじく『駄言』(だげん)もある。『#駄言辞典』を付けて、駄言にまつわるエピソードをつぶやいてください。まとめたものは、絶版を目指して出版します」

 これに対して1200を超える駄言が集まったそうです。その中から特に多かったものを中心に、「女性らしさ」「キャリア・仕事能力」「生活能力・家事」「子育て」といったカテゴリーに分類し、言われた人によるコメントと、その発言が生まれた背景についてイラストを交えて紹介したのが、今回紹介する『早く絶版になってほしい #駄言辞典』です。

 「駄言」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。本書ではその意味を「『女はビジネスに向かない』のような思い込みによる発言。特に性別に基づくものが多い。相手の能力や個性を考えないステレオタイプな発言だが、言った当人には悪気がないことが多い」と定義づけしています。

 本書からいくつか例を挙げてみましょう。「就活は女性らしくスカートで」「女の子が入れたほうがお茶がうまい」「専業主婦させてくれる旦那さんでよかったね」「いいお嫁さんになるね」など、女性であれば一度は耳にしたこと・言われたことがあるかもしれません。

 女性に向けての駄言があれば、男性に向けての駄言もあります。「男らしさ」というカテゴリーでは「え?男なのに育休取るの?」「男なのに情けない」「男なんだから黙って働けよ」といった駄言が紹介されています。

 これらは性別に基づく思い込みとしてわかりやすいものをピックアップしましたが、中にはすぐには気づかないかもしれないものも......。たとえば「女性管理職」は当たり前のように浸透している言葉ですが、これを「駄言」として投稿した人の「管理職という言葉には『男性』という意味でもあるのかな?」というツイートを読めば、この言葉が持つおかしさに気づくかもしれません。

 ただ駄言をあげつらうだけではなく、なぜ駄言が生まれるのか、駄言をなくすためにどうしていけばよいのかを考えるのも大切です。第1章「実際にあった駄言リスト」に続く第2章では、アーティストのスプツニ子!さんや立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さん、政治家の野田聖子さんなどへのインタビューを掲載。駄言が生まれる原因について、さまざまな角度から考えることができます。また第3章では、第1章・第2章をふまえ、「駄言にどう立ち向かえばいいのか」がわかりやすくまとめられています。

 駄言の数々を見ながら、「自分はこうした発言や考え方をしていないだろうか?」とリトマス紙のようにも使える本書。一人ひとりの気づきによって無意識の思い込みをなくしていけば、誰もが生きやすい世の中に一歩近づけるのではないでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]