『安いニッポン 「価格」が示す停滞 (日経プレミアシリーズ)』中藤 玲 日本経済新聞出版
『安いニッポン 「価格」が示す停滞 (日経プレミアシリーズ)』中藤 玲 日本経済新聞出版

 「東京は土地も何でも世界一高い」――かつてはそう言われた日本ですが、それはもはや過去の話のようです。

 中藤 玲さんの著書『安いニッポン 「価格」が示す停滞』では、日本で価格が高いと感じられるものでも、世界基準で見ると「日本は安い」ということが現実に起きているといいます。本書は、2019年末から2020年にかけて日本経済新聞本紙および電子版で公開された記事をベースに、さらなる取材を重ねて大幅に加筆されました。

 世界基準で見ると「日本は安い」の一例は、ディズニーランド。東京ディズニーランドの大人1日券は2021年1月下旬時点で8200円。しかし、アメリカ・フロリダ州は約8割高い1万4500円ほど、カリフォルニア州やパリ、上海も1万円を超えています。日本のディズニーランドは世界では最も安い基準であるというのが現状です。

 また、本書の序盤で取り上げられているのが「100均」と「回転ずし」。100均の代表格であるダイソーは海外26の国と地域に2248店舗を出店していますが、そのほとんどが100円では売られておらず、日本が最安値水準だといいます。また、日本では「1皿100円」で人気の回転ずし「くら寿司」は、アメリカでは2.6ドル~3ドル(約270~約310円)、台湾は38台湾ドル(約140円)という価格設定だそうです。

 なぜ海外では100円よりも高い価格で売られているのかというと、「いま進出している国や地域のすべてで人件費、賃料、物価、そして所得が向上している」(本書より)とダイソー幹部の方はいいます。くら寿司の田中邦彦社長も「人件費が高すぎて、日本よりは高くせざるを得ない」(本書より)と話しています。

 では、なぜ日本はこれほど安い価格のままなのでしょうか。第一生命経済研究所の首席エコノミスト・永濱利廣さんは「製品の値上げができないと企業がもうからず、企業がもうからないと賃金が上がらず、賃金が上がらないと消費が増えず結果的に物価が上がらない――という悪循環が続いているというわけだ。そうして日本の『購買力』が弱まっていった」(本書より)と言います。

 「この20年間、日本の物価はほとんど変わっておらず、平均インフレ率はゼロになっている。その一方で、アメリカの物価は20年間、ほぼ毎年2%ずつ上昇してきた。2020年の物価水準は、00年の物価水準の5割増しだという」(本書より)のです。

 ここに私たちが、世界最安レベルの入園料であってもディズニーランドが割高に感じる根本的原因があるといえます。「例えばアメリカのように所得が大きく増えていれば、ディズニーランドの入園料が上がっても負担感は高まらない」(本書より)という著者の指摘はもっともです。

 ほかにも、「日本の年収1400万円はサンフランシスコでは低所得」「インバウンド需要が急増した北海道・ニセコではラーメンが1杯3000円」といった話題や、企業の社長や経済学者など識者へのインタビューを数多く盛り込んでいる本書。「安い国」の日本は、今後どうなっていくのか。国は、企業は、個人は何をすべきなのか。本書には、ふたたび日本経済を向上させるためのヒントがあるかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]