『明石家さんまヒストリー1 1955~1981 「明石家さんま」の誕生 (明石家さんまヒストリー 1 1955~1981)』エムカク 新潮社
『明石家さんまヒストリー1 1955~1981 「明石家さんま」の誕生 (明石家さんまヒストリー 1 1955~1981)』エムカク 新潮社

 お笑い怪獣、国民的お笑い芸人、トークの魔術師......いくつもの異名を持つ明石家さんま。誰もが知る大スターではありますが、彼が生まれてから現在に至るまで、特に幼少期や青春時代の詳細な歴史を知る人は少ないのではないでしょうか?

 実は一人、明石家さんまをよく知る人物がいます。それが『明石家さんまヒストリー1 1955~1981 「明石家さんま」の誕生』の著者・エムカク氏です。

 1973年生まれのエムカク氏は20歳のころ、たまたま目にしたテレビ番組『痛快!明石家電視台』で、さんまのおもしろさに衝撃を受けます。それから腰を据えてさんまの出演番組を観るようになった彼は、ラジオやテレビ、雑誌などでのさんまの発言をそっくりそのままノートに書き記すように。こうして約25年にわたる月日を費やしてできた「明石家さんま研究」を一冊にまとめたのが本書です。

 全9章のうち1章では、さんまがこの世に生を受けた1955年から高校卒業の1974年までの約19年間がまとめて紹介されています。しかし2章以降は、1章ずつさんまの1年間を描いていく濃密さ。たった1年であってもエピソードに事欠かないのがさんまのスゴさであり、そんなさんまのエピソードを逐一記録してきたエムカク氏の熱意にも驚かされます。

 たとえば1974年、1975年だけ見ても、さんまの人生は実に波乱万丈。1973年秋、高校2年生だった杉本高文(明石家さんまの本名)は、落語家の笑福亭松之助から弟子入りを許されます。毎朝、奈良の実家から兵庫県西宮市にある師匠の自宅まで1時間半かけて通い、家事をおこない、劇場では舞台袖から師匠の舞台をじっと聞き、着替えを手伝ったり着物を畳んだりする日々。本書には漫才師・今くるよの「さんまちゃんは今からは想像できんぐらい真面目やってん」との証言が引用されています。

 しかし、松之助に心底惚れ込んでいたさんまは、そんな生活もけっしてつらくなかったとのこと。「落語を教えてもらうのは週3回、あとは師匠の体験談。特にぼくの師匠は落語より先に人間という考えで、人間性を磨けという論理で。(略)だから人生勉強のほうが多かったんや。そして、もし売れへんかっても、この師匠についたのは大正解やと思ったわけや」と、さんまの著書『ビッグな気分―いくつもの夜を超えて』に書かれているそうです。

 「生きてるだけで丸儲け」というさんまの人生観は、このころに芽生えていたのかもしれないと思わされるエピソードでもあります。

 そして、島田紳助や笑福亭鶴瓶などの芸人仲間と出会い、親交を深めていったのもこのころ。落語家としてもトントン拍子に進み、異例のスピードデビューを果たします。しかし、当時付き合っていた恋人を守ろうとする一心から駆け落ちを決意。大阪から逃げるように上京し、東京で生活することに。

 これだけでもたった2年の間に起きた話。そしてそれぞれの出来事がさんまの発言とともに再現されているのだから、おもしろくないわけがない!

 ほかにも、なぜ「明石家さんま」という芸名がつけられたのか、大阪でどのようにブレイクしたのか、なぜ落語をやめることになったのかなど、知られざるエピソードが満載。事の真相や顛末を知りたい方はぜひ本書を読んでみてください。エムカク氏同様、皆さんも人間味あふれる明石家さんまという人物に魅了されてしまうことでしょう。

[文・鷺ノ宮やよい]