『スマホ脳 (新潮新書)』アンデシュ・ハンセン,久山 葉子 新潮社
『スマホ脳 (新潮新書)』アンデシュ・ハンセン,久山 葉子 新潮社

 スマホは平均で1日4時間、若者の2割は7時間も使っているそうです。「スマホがないと生活が崩壊してしまう!」と思う人がいる一方で、スマホがもたらす影響を不安視している人も。子どもがいる場合は「幼いころからスマホを使わせて問題ないのだろうか?」と危惧する人もいるかもしれません。

 スティーブ・ジョブズをはじめとするIT企業のトップたちは、自分の子どもにデジタルデバイスを与えていないといいます。それはなぜなのでしょうか。

 そんな疑問に答えてくれるのが、本書『スマホ脳』です。著者のアンデシュ・ハンセン氏は、今スウェーデンでもっとも注目されているというメンタルヘルスのインフルエンサー。ノーベル生理学・医学賞の選考委員会もある名門カロリンスカ研究所(医科大学)で医学を学んだのち、現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムの病院に精神科医として勤務しているそうです。そのかたわらで執筆活動もおこなっており、2018年に刊行された『一流の頭脳』(サンマーク出版)は世界的なベストセラーになりました。

 そんな氏の新刊となる本書は、スマホが心の健康にどのような影響を及ぼすのかを最新研究をもとに明らかにした一冊。2019年に刊行されるや、教育大国スウェーデンを震撼させるほどの社会現象になったといいます。

 ハンセン氏が本書で最初にハッキリと述べているのが、「人間の脳はデジタル社会に適応していない」ということです。人間は地球上に現れてからほとんどの時間を狩猟と採集に費やして暮らしており、今でも当時の生活様式に最適化されているため、現在の世界は私たちにとって非常に異質なものだといいます。そしてそのミスマッチが、うつ、睡眠障害、記憶力や集中力、学力の低下といったさまざまな症状を引き起こしているというのです。

 たとえば、スマホのブルーライトにはメラトニンの分泌を抑える効果があり、私たちの睡眠時間を狂わせてしまったり、SNSで皆がどれほど幸せかという情報を大量に浴びると、心の平安やバランス、精神力などを司るセロトニンが影響を受けてしまい精神状態が悪くなったりといったことがあるのだとか。

 子どもについてはどうでしょうか。衝動に歯止めをかける前頭葉が発達していない子どもは、スマホを手に取りたいという欲求が我慢できず、デジタル機器がどんどんと魅惑的なものになってしまうそうです。米国小児科学会では、1歳半未満の子どもはタブレット端末やスマホ使用を制限すべきだとの警告を出しているほど。

 しかし、だからといって今さら原始人のような生活に戻ることはできません。では、スマホが引き起こすストレスと私たちはどう付き合っていけばよいのでしょうか?

 ハンセン氏が勧めているのが「身体を動かすこと」。集中力が高まり、ストレスへの耐性がつき、記憶も強化されるといいます。このほか、最終章で掲げられている「デジタル時代のアドバイス」は必見。「自分のスマホ利用時間を知ろう」「寝る直前に仕事のメールを開かない」「SNSは交流の道具と考えて」など、「スマホ脳」に陥らないための重要な提言が書かれています。

 リモートワークが増えたり、家にこもる日が続いたりして、スマホやパソコンなどのデジタルツールに触れる時間が増えた人も多いことでしょう。この機会に、本書を通してスマホとの付き合い方を今一度見直してみるのも良いかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]