『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸 潤 講談社
『半沢直樹 アルルカンと道化師』池井戸 潤 講談社

 先日放送が終了した人気テレビドラマ『半沢直樹』。最終回での半沢の見事な1000倍返しにスカッとした人も多いでしょう。その原作となる小説のシリーズ第5弾にして、6年ぶりの最新作となるのが『半沢直樹 アルルカンと道化師』です。『下町ロケット』や『空飛ぶタイヤ』など数々のヒット作を生み出してきた作家・池井戸潤さんによる書き下ろし作品です。

 前作『半沢直樹 4 銀翼のイカロス』では、テレビドラマ版の後半にあたる帝国航空の経営再建にまつわる物語が描かれていたため、続く本書では、それ以降の半沢の勇姿が見られると期待した読者も多いかもしれません。しかし、本書の時代設定は、半沢が東京中央銀行大阪西支店に赴任して間もないころ。シリーズ第1作『オレたちバブル入行組』よりも時間をさかのぼることになります。

 ストーリーは、融資課長・半沢のもとに、ある案件が持ち込まれるところから始まります。新進IT企業のジャッカルが、大阪の老舗美術系出版社・仙波工藝社を買収したいというのです。ジャッカルの社長・田沼時矢が無類の絵画コレクターであることから生じた話かと思われたものの、なぜ業績が低迷している出版社をわざわざ高値で買収する必要があるのでしょうか。

 買収に応じる意思のない仙波のため、半沢は仙波工藝社の担保を見つけることで融資の承認を得ようとしますが、大阪営業本部もなぜかこの買収話を強引に進める姿勢を見せます。疑問に感じた半沢が調べを進めると、そこには3年前に自殺したモダンアート界の巨匠・仁科 譲の有名絵画「アルルカンとピエロ」が関係していることがわかってくるのです。ちなみにアルルカンとは、ピエロとともにイタリアの伝統的な喜劇に登場するキャラクターで、ずる賢いアルルカンと純粋なピエロの対比は、画家たちが好んで描いてきたモチーフなのだといいます。

 これまで同様、銀行が舞台となりながらも、本書の鍵となるのは名画にまつわる何やら謎めいた話。仙波工藝社の親族である堂島芳治が生前に話していた「お宝」とはなんなのか、そこにはどのような秘密が隠されているのか。探偵よろしく奔走する半沢の姿に、読者はミステリー小説を楽しむようなスリリングさを感じることでしょう。もともと推理小説作家の登竜門と言われる江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューした著者だけに、本書にもミステリーの要素が多分に生かされていることがわかります。

 とはいえ、シリーズ全体に通じる銀行内の出世争いやお決まりの逆転劇は、本書でも健在。同期の友人・渡真利忍や上司の浅野 匡、半沢の天敵ともいえる宝田信介などが登場するほか、頭取になる前の中野渡謙の名前なども出てきます。終盤、支店長などが一堂に集う全店会議で、責任を追及された半沢が大逆転をかます場面は、誰もが胸のすく思いをするに違いありません。

 けっして読者を裏切らない爽快なエンターテインメントがメインの小説となっている本書。以前からのファンはもちろん、ドラマで興味を持った方や初めて読んでみようかなと思った方にとっても、満足度の高い一冊になること請け合いです。