会社であれ、お店であれ、個人であれ、何かの商品やサービスを売る人であれば誰しもが「優良顧客を獲得したい」と思っているのではないでしょうか。けれど、現状としてはその多くが「顧客の減少」や「売上の減少」に頭を悩ませているといいます。

 それはなぜか。どうすればよいのか。その仕組みを知ることができるのが、今回ご紹介する『優良顧客を逃さない方法』です。著者はマーケティングコンサルタントとして活躍する大坂祐希枝さん。過去に、4年連続顧客減だったWOWOWを12年連続顧客増に導き、さらにはWOWOWグループ初の女性取締役を務めたという経歴を持つ方です。

 本書は大坂さんがWOWOW時代に経験し体得した施策があますところなく書かれており、リアル店舗、通販、SNS、会員制ビジネスなどを運営するすべての会社や個人が使える「顧客を離れさせない仕組み」や「優良な顧客だけをつかむ方法」を学ぶことができます。

 WOWOWは1991年に開局した会員制の有料放送ですが、1年間の新規加入者数が56万人で、そのうち年間たった5000人しか会員が残らない......驚くべきことですが、これが大坂さんがWOWOWにいた頃のリアルな数字だったそう。

 WOWOWが放送するコンテンツは地上波では放送されないスポーツ中継や映画などが中心ですが、加入したばかりの視聴者の中には、自分のお目当てのプログラムが終わってしまったり、キャンペーン無料期間が終了する段階で解約してしまう人がたくさんいたといいます。そのため、どんなに大勢の会員を獲得しても、それに伴う流出も止められず、年々新規の会員の獲得を伸ばしてもそれ以上の解約が発生するという悪循環な構造に陥っていたのだとか。

 そんな悪循環を断ち切るべく、解約を止めるための部署「解約防止部」の初代部長に任命されたのが、当時マーケティングについてまったくわからなかった大坂さん。けれど、その先入観のなさが幸いしたのか、彼女はついに顧客を引き留める「大事な考え方」に出会います。それが「リテンションマーケティング」でした。

 この言葉については馴染みがない人も多いかもしれません。「リテンション」は日本語では、「保持、維持、記憶」などと訳される言葉。マーケティングの分野では、既存顧客維持に比べ新規顧客の獲得には5倍のコストがかかるという「1:5」の法則があるそうで、つまりは新規顧客獲得よりも既存顧客維持(リテンション)に力を注いだほうが得策だといえるというのです。

 そこで大坂さんは既存顧客維持に向け、解約はなぜ増加するのかを探り、まずは「電話での引き留め策に注力する」や「解約する人のペルソナを作成し、それに合わせた解約させないコミュニケーションをおこなう」といった対症療法を進めたそう。

 しかし結局、たどりついたのは「無料で釣った人には打つ手はない」ということ。「無料だから」「割引だから」と金額面だけでお得感を出してアピールしても、無料期間が終われば解約してしまう人が多い。それよりもWOWOWの本質的な価値を認めている優良顧客の割合を高めることで経営を筋肉質化していこうという姿勢に持って行ったのだとか。

 顧客が増えない、商品が売れないというときに、割引や無料の言葉で「安い」をやたらと売り物にしたり、プレゼントで目を引いたりといった方法を取りがちですが、それでは根本的な解決にはなっていないことがよくわかります。

 あとがきには「顧客が求めている本質的な価値は、割引ではありません。」という言葉も書かれています。「優良顧客が求めているものと自社が提供する価値をマッチさせる努力を重ねれば、割引をしなくても顧客がついてきてくれるようになります」という大坂さん。本書は優良顧客を獲得するためにリテンションマーケティングについて勉強してみたいという人には最適な一冊といえるでしょう。