2000年に入ってもう20年近く経とうとしている現代において、1980年代というとかなり古く思えるかもしれません。でも実は、今も第一線で活躍するサザンオールスターズや松田聖子さん、近年は女優としても活躍著しい小泉今日子さんや斉藤由貴さんら、スターが続々とデビューし、名曲を送り出してきたのが80年代前後。現代に通じる、音楽やエンタメのエッセンスが当時に生まれたと思うと、少し身近に感じられるのではないでしょうか。

 本書「カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区」は、芸人のマキタスポーツさんと、音楽評論家スージー鈴木さんが、そんな80年代音楽について熱く語り合う番組「ザ・カセットテープ・ミュージック」(BS12トゥエルビで放送中)を書籍化したもの。スターが群雄割拠する80年代の音楽を、2人がマニアックなまでに掘り下げています。

 キラキラした80年代に青春時代を送ってきた2人は、その熱量がすごいんです。「CマイナーからA♭への転調が...」「イントロ部分がほぼカノンで...」なんていう曲の構成にまで切り込んだトークは、BSならではのマニアックさ。音楽好きには楽しめること請け合いですが、一方で素人でも楽しめるのが、度々トークに登場する当時の芸能界を賑わせたエピソードです。

 例えば、今や国民的バンドとなっているサザンオールスターズですが、当時は決してそうではなかったのだそう。78年にデビューしたサザンは、その後1、2年はコミックバンド(茶化すような、滑稽な歌を主に歌うバンド)として扱われたと言い、音楽番組「ザ・ベストテン」に出演した際も、ボーカルの桑田佳祐さん自身が「僕たちは、目立ちたがりの芸人でーす」と言って登場。スージーさんは「日本のロック史が変わった瞬間と言ってもいいんですけど。その発言と『勝手にシンドバッド』のにぎやかさもあって、みんながお笑い芸人だと」と当時を振り返っています。

 軽いノリの発言は桑田さんらしい感じもしますが、そんな"芸人扱い"で登場したサザンがその後40年も活躍し続け、今や国民的バンドにまで上り詰めたと考えると、感慨深いものがあります。

 さらに、今では信じられないような紅白歌合戦にまつわるこんなエピソードも。1985年、白組のトップとして登場したのは、ロックミュージシャンで、今では俳優としても活躍する吉川晃司さん。真っ赤なスーツ姿で、シャンパン片手に登場した吉川さんは、当時CM曲にも起用されヒットした「にくまれそうなNEWフェイス」を熱唱します......が、事件はそこで起こります。カメラにぶつかる、客席に降りる、演奏時間をオーバーするといったスタンドプレーを連発した挙句、抱えていたギターに火をつけるという大暴走。カメラワークをうまくずらしたために当時はテレビ画面には映らなかったそうですが、この出来事の衝撃を「価値観を転倒させて、変えてしまったっていうことで」と振り返るマキタさん。さらに裏話として「この吉川晃司さん。まあ裏話で言うと、後でほんとに渡辺プロの社長からも大目玉をくらったとか。でもリスクをしょってまでそういうことをやりたかったのは、それはアイドルの枠に自分が閉じ込められたくないんだっていう自己主張を込めてやってる」と、その行動に込められた思いを語っています。

 さらに、「キョンキョン」の呼び名で人気アイドルとなった小泉今日子さんについては、ヘアスタイルにまつわるエピソードから、楽曲に対する独自の見解も披露。アイドル時代はショートカットのイメージが強い小泉さんですが、実はデビュー時は、当時流行していた松田聖子さんを模した「聖子ちゃんカット」だったと言います。それがある時、事務所の了承も得ずに小泉さんは髪をバッサリカット、ショートヘアに。マキタさんは小泉さんについて「明らかに他とは違うんだって、当時少年だった僕の目から見てもわかりましたね」「初めはみんな大体、松田聖子フォルダに入ってましたよね。だから、亜流なんですよ。そこから、キョンキョンは全く違うところに一足とびに行った。これはご本人が言っている通り、『アイドルであることに疲れてしまった』」とその"特異性"を語ります。

 さらに小泉さんの楽曲「なんてったってアイドル」については、「小泉今日子が、アイドルを客観視した歌詞なんですよね」とスージーさん。これに応じてマキタさんは「そう! アイドルから出てきちゃったキョンキョンが、『清く正しく美しく』のアイドル象について歌ってる。しかも一番最初のイントロのところで『ワーッ』ていうオーディエンスの声が聞こえる。これぞ、メタじゃないですか。『私は演じてるんですよ』ってことを歌っていいアイドルは、小泉今日子さんしかいなかった。僕はこれをやったことで、キョンキョンはアイドルを殺したんだと思います」と持論を展開。確かにアイドル時代のこうした行動や楽曲を読み解くと、今の小泉さんの独特の魅力の背景も、見えてくるような気がします。

 知っている人には懐かしい、知らない人には驚きのエピソードが満載の同書。当時の楽曲の素晴らしさとともに、今では大御所となったスターたちの意外な一面を垣間見ることもできそうです。