95歳にして今なお現役で活動し続ける女流作家・瀬戸内寂聴さん。現在、彼女を公私ともにささえているのが66歳年下の女性、瀬尾まなほさんです。寂聴さんの秘書であり、この本『おちゃめに100歳! 寂聴さん』の著者でもあります。本書はそんな彼女が寂聴さんの「おちゃめな素顔」と「愛あふれる本音」をエッセイ形式でつづった一冊です。

 7年前の大学卒業後、すぐに寂庵で働き始めたというまなほさん。初めて寂庵をおとずれ寂聴さんと面会したとき、彼女は寂聴さんが作家だとは知らず作品も一度も読んだことがなかったというから驚きです。

 何もかもが初めてづくしで3年が過ぎたころ、「春の革命」と呼ばれる大きなできごとが起こります。長く勤めていた二名が辞めることとなり、お堂を任されていたスタッフとまだまだひよっこのまなほさんだけが残ることとなってしまったのです......!

 しかし、そこで腹をくくったまなほさん。それからは食事、洗濯、掃除などの身の回りの世話と、仕事の管理をすべてひとりでこなし、寂聴さんと二人三脚で歩んでいくうちに、ふたりの距離もぐっと縮まっていくのです。

寂聴さんといえば情熱的でいて天真爛漫なイメージがありますが、24時間ずっと寂聴さんのそばにいるまなほさんからは、さらに赤裸々なエピソードが繰り出されます。

 たとえば「肉を食べないと、書けない」というほど肉食女子な寂聴さん。ステーキやうなぎ、すっぽん料理なども大好物だそうですが、出家をしているため「お酒を飲んでもいいんですか? 肉を食べていいの?」とたずねられることもあるそう。そのときは「首にかけているこれ(輪袈裟のこと)を外せばいいの」といって、ひょいと外してもりもり食べる。たまに外すのを忘れてテレビ収録などをしてしまい、肉を食べるところが全国放送されると、比叡山からお叱りの連絡が来ることもあるのだとか......。

 また、寂聴さんとまなほさんの会話の面白さも読みどころのひとつです。世代が大きく異なるだけに、ふたりは価値観がちがうこともしばしば。「センセ、よくテイソウ、テイソウって、ここに来るオバチャンたちに話してるでしょ? あの子はショジョだからとか、でないとか。あれって何?」とのまなほさんの質問に、「今のあなたたちムスメのように誰とでも寝ないお行儀よ。それを守っている女の子のこと」と答える寂聴さん。そこでまなほさんは「誰とでも寝て、どうして悪いの?」とひとこと。

 いっぽうで、寂聴さんもなかなかの正直者。まなほさんが髪型を変えて似合っていなかったりするとすぐケチをつけるのだとか。そこで寂聴さんが何か言い出すと、「また始まった......ガミガミおばば」なんてまなほさんは心の中で思っているといいます。

 私生活ではこうしたことをため口で言い合い、いつも大笑いしてばかりのふたり。年が違うからこそ巻き起こるズレがあり、年が離れていても気が合うふたりは心がピタリと通い合っている。寂聴さんはまなほさんに「あなたと私は、縁があったから出会ったのよ」と言い、まなほさんは「わたしの人生悲しいことも辛いこともたくさんあったけれど、先生に出会ってすべてチャラになった気がする」と書いています。縁というものは目には見えないものですが、寂聴さんとまなほさんのつながりを見ていると、縁とは本当にあるものなのだという気持ちにさせられます。

 本書は寂聴さんの素顔が垣間見られるのと同時に、瀬戸まなほというひとりの女性の魂の成長のドラマでもあります。寂聴さんファンの人が読んで楽しめるのはもちろん、人生の目的や社会との接点を持てずに生きている若い世代の人たちの心にもきっと訴えかけるものがあるに違いありません。