街を歩いていると、以前よりも外国人観光客の姿を多く見かけるようになった。そう感じている皆さんも多いはず。



 事実、それは間違っておらず、2007年にはおよそ年間800万人だった外国人観光客は2016年には2400万人を突破したそう。この10年足らずで3倍にもなったわけですが、しかし日本の観光業はまだまだそのポテンシャルをじゅうぶんに発揮していないと著者は語ります。「世界一訪れたい国」になるためにはどうすればよいか? そのために「日本がやるべきこと」を著者の分析と体験をもとに紹介したのが本書です。



 全部で6章からなる本書ですが、著者がたびたび説くのは、ただ単に観光都市としての評価を上げるだけではなく、数多くの外国人観光客に訪れてもらい、いかにたくさんのお金を落としてもらって日本経済を潤わせられるかということ。



 そうした視点からとらえると、「『どの国からきてもらうか』がいちばん大切」(第2章)、「自然こそ、日本が持つ『最強の伸び代』」(第4章)など各章のテーマを見るだけでも、とても興味深いものに思えてこないでしょうか。



 たとえば、「爆買」といった言葉もあるように、中国からの観光客は日本にとっては上客と思われがちです。しかし、「爆買」で買われる商品は実は輸入品が多いため、実際は国内に残る収入は少ないと著者は説明します。また、アジアの観光客は滞在期間が短いケースが多く、そのぶんだけお金を落とす金額も減る傾向に。アジア以外に目を向けると、フランスは親日派が多く日本文化に理解があるとされますが、これも観光業者や自治体の先入観に過ぎないとキッパリ。「日本文化が好き」ということと「日本に観光に来てお金を落とす」ことはまったく別の次元の話だと語る著者。これらはすべてデータにもとづいて話がなされるため、説得力があり納得させられます。



 そんななか、著者が日本の観光産業においてもっとも注力すべきとするのが「自然観光」です。観光大国という評価を受ける国は「自然・気候・文化・食」の4つの観光資源に恵まれているのですが、日本はこの4条件をすべて満たしているのだそう。中でも「自然」に関してはかなりの強みがあり、日本の最強の伸び代になると著者は主張します。



 少し足を伸ばせば、美しい山、河川、海岸線があり、さらに奥深い山に入れば「秘湯」と呼ばれる温泉地や自然と共生する伝統的な建物を見ることができる。自然がここまで多様性に富んでいる国は他国と比べてもなかなかないのだとか。



 しかし、「自然」に関しても本来もっている潜在能力が引き出されていないのが現状であるとの指摘も。その解決策のひとつとして著者は、自然の中でおこなうフィッシング(釣り)やハンティング(狩猟)などの「体験型観光」を提案します。これらのツーリズムにより長期滞在型の観光客やリピーターの獲得につながるし、長い時間を必要とすることで必然的にそこで落としてもらえる対価が高くなる傾向があるためです。こうした観光戦略は、イギリスで生まれ育ち、外国人としての視点を持ち合わせた著者ならではといえるかもしれません。



 他にも観光パンフレットやキャッチコピーにおける情報発信の仕方や、高級ホテルを増やし「富裕層向け」の整備を進めるなど、数々の課題を本書で著者は明らかにしていきます。けれど、課題があることこそ潜在能力を秘めている証であり、観光大国・日本としての未来に希望も感じられます。



 東京オリンピックが開催される2020年には4000万人の外国人観光客を誘致するという目標を立てている安倍政権。最後に著者は「まずは現実的なビジネスの視点から観光資源を整備して、科学的な根拠・分析に基づいて適切に発信して、外国人に来てもらって、なおかつきちんと稼ぐ形に改める」ことが必要であるとしています。そして、日本の潜在能力を考えれば、これが実績に変わることは可能である、と。停滞する日本経済の突破口としても、日本が観光大国となることはひとつの大きな切り札になるにちがいありません。