(写真:BOOKSTAND)
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成人向け青春ギャグ漫画「アフロ田中シリーズ」を映画化した作品『アフロ田中』で、2012年に映画監督デビューを果たした松居大悟さん。慶応大学在学中は、演劇サークル「創像工房in front of.」に所属し、その後に団体内で「ゴジゲン」を結成させると、全公演の作・演出を手掛けて自らも出演します。2009年には、史上最年少の23歳でありながら、NHK連続ドラマ「ふたつのスピカ」の脚本を手掛け、今年5月には話題の映画「昼顔」にも俳優として出演。演出家や映画監督としての才能はもちろん、俳優としても私たちを楽しませてくれる松居さん、今回は「暴走」をテーマとして自身が心を掴まれたという作品の数々をご紹介します。

------映画監督デビュー作は漫画が原作ですが、もともと漫画がお好きなんでしょうか?
「そうですね、小学生の頃は藤子・F・不二雄さんの本を読んで育ちました。初めはアニメから、すぐに漫画にもはまってそれから少年ジャンプとかずっと読んでました。僕は漫画家になりたかったんです。だから中学・高校生時代は本格的に漫画家を目指して、それを意識して漫画を読んだりして。特にギャグ漫画が好きで『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』のうすた京介先生や、『行け!稲中卓球部』で有名な古谷実先生は好きでした」

------ギャグ漫画がお好きなんですね。今回は「暴走」がテーマということですがそういった「笑い」も人を暴走させるのでしょうか?
「『笑い』って、人を暴走させるという発想にはちょっとつながりにくいですかね。人を楽しませたり、リラックスさせたりというのが笑いだと思うんですけど、それは『受ける』側にとっての笑いであって、僕自身もそうであるように、コメディーを『作る』側は命を削って傷だらけになっているんです。実際に笑いが人を暴走させると感じたのは、ツチヤタカユキさんの書いた『笑いのカイブツ』という小説を読んでですね、これは初期衝動のまま突っ走った男の小説だと思いました」

------どのような内容かぜひお聞かせください。
「これはツチヤさん自身のお話で、彼はハガキ職人でオールナイトニッポンやケータイ大喜利に応募する私小説なんです。彼は、笑いでてっぺんを取らなければいけない、そして自分は21歳で死ぬと決めて、田舎のフードコートに通ってずっとネタを書いて、命を削って一人で闘い続けて、ラジオで読まれて名前が浸透していくんです。誰に言われるわけでもなく、笑いを量産するために毎日ネタを2000個考えるって決めて、寝る間も削りながら必死で笑いを作っていく姿に目が離せなくなるんですよね。ストーリーはもちろん、小説の中ではハガキ職人として実際に応募したネタも書かれていて面白いですし、ラジオを聴きながら読むとぞくぞくします」

------笑いを『作る』側として、共感する部分も多いのでしょうか?
「何かに負けたくない、頭を下げたくない、そんな時間があるくらいだったら俺は笑いを考える、という気持ちはすごく分かるんですよね。僕もおもしろい映画や演劇を作りたいから、楽しく飲んでるやつには負けないとか、そんな暇があったらその時間に費やすとか、思い当たる節があって。特に、自分の中でぐっときたのは『あいつまた送ってきやがったよ』と言われて憧れていた芸人さんから認知してもらえたり、メールをもらったりして泣きそうになるくらいうれしい気持ちっていうのは、やっぱり一人でやりたくないんじゃないかって、そこにぐっときました。初期衝動だけでそのまま行き切るので、切なく悔しく歯がゆい気持ちになるんですけど、物語の行き先も気になりました」

------ありがとうございました! 次回もまた松居大悟さんのおすすめ作品についてお話を伺います!

<プロフィール>
松居大悟 まついだいご/1985年福岡県生まれ。映画監督、劇団ゴジゲン主宰。2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、映画『スイートプールサイド』、『私たちのハァハァ』、『アズミ・ハルコは行方不明』など手掛けるほか、クリープハイプ、MOROHA、銀杏BOYZなどのMVやテレビ東京ドラマ24『バイプレイヤーズ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』メイン監督を務める。最新監督作『アイスと雨音』が2018年公開予定、ゴジゲン第14回公演「くれなずめ」が10~11月に東京・京都・北九州で上演。