埼玉県飯能市に実在する「自由の森学園中学校・高等学校」、通称「ジモリ」。校則もテストもないというユニークな校風の学校で、これまでにミュージシャンの浜野謙太さんや歌手・俳優の星野源さんなどを輩出していることでも知られています。『ようこそ、自由の森の学食へ』はそんなジモリの学生食堂を舞台に、新米管理栄養士が空回りしつつも奮闘する姿を描いたお仕事コミックです。

 主人公は茶の湯大学で栄養学を研究する大学院生・中垣ユイ。ジモリの学食「食生活部」に興味を覚えたユイは、居ても立ってもいられず学園に偵察に出かけることに。そこで目にしたこだわりの数々に感動を覚え、自身も食生活部の一員として働かせてもらうことになるところから物語は始まります。



 契約農場から届く新鮮な有機野菜に、手作りの保存食、厨房のオーブンで焼き上げる天然酵母のパン、自家製打ちたてのうどんに無添加のハム、ソーセージ......。"奇跡の学食"と例えられるジモリの学食ですが、現在にいたるまでの過程も本書では紹介されています。



 はじまりは学園創設時にまでさかのぼるという、ジモリの食生活部。「子どもたちに安全でおいしいものを食べさせたい」と願う保護者たちが素人ながらに自分たちで立ち上げ、最初は手探り状態で運営を始めたのだそう。問屋や卸に頼らず食材ごとに生産者と直接やりとりしたり、調理の方法を試行錯誤しながら工夫したり。30年におよぶ努力や情熱の賜物が、さらなる進化を遂げつつ今につながっていることがわかります。



 とはいえ、学食を利用する生徒の皆が「おいしい」と完食してくれるわけではありません。偏食が多かったりアレルギーがあったりと、それぞれに悩みをかかえている子どもたち。それに向き合うのも食生活部の大切な仕事です。寮生全員の名前や好みを覚え、一人ひとりの「何か食べたい」という気持ちに寄り添っていく。食生活部の仲間たちのそうした姿からも、ユイは多くのことを学んでいきます。



 学食は、ひとことで言えば「ご飯を出すところ」。けれど、ジモリの食生活部には「安全でおいしい料理を出す」という確固たる思いがあります。それを叶えるべく奮闘し成長するユイの姿には、多くの人が心を動かされるはず。本書は食について考えさせられる一冊であるとともに、学食にかける人たちのアツい情熱を描いたお仕事漫画としても読みごたえがあって楽しめます。



 なぜこの学校の学食がこれだけの厳選食材を使って手が込んだ料理を出すことができるのか。ぜひ皆さんもそのヒミツを本書で読み解いてみてください。