いまや日本だけでなく世界中に多くのファンを持つ宮﨑駿監督のジブリアニメ作品。子どもが観て純粋に楽しめるのはもちろんのこと、考え方、受け止め方次第でさまざまな解釈が生まれるところも大人にとっては大きな魅力ではないでしょうか。



 小川仁志著による本書『ジブリアニメで哲学する 世界の見方が変わるヒント』は、そうしたジブリ作品を観たあとに残る「あれは何を意味していたの?」というモヤモヤを解くためのヒントを教えてくれる本。"哲学"と聞くとなんだかとても難しそうなイメージですが、この本はむしろ、誰もがわかる簡単な文章でわかりやすく書かれているのが特徴です。



 本書で取り上げられているジブリアニメは『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』『千と千尋の神隠し』『風立ちぬ』など10作品。それぞれの作品に出てくる「風」「森」「城」「海」といった主要なモチーフについて、哲学的な要素を用いた観点からアプローチし、作品が持つメッセージや私たちが生きる現実世界の本質に迫ります。



 たとえば『となりのトトロ』の章を見てみると、「なぜトトロは、『前』でも『後ろ』でもなく『となり』にいたのか?」なんて問いかけが出てきます。皆さんならこの質問になんて答えますか? 「そんなこと言われても!」となりそうですが、そこをあえて考えてみましょう。



 筆者の小川仁志さんは本書の中で、この「となり」が持つ意味について、「考えてみると、となりというのはとても不思議な存在です。それはまったくの他者でもなく、自分とかかわりのある他の存在なのです。もちろんもともとは赤の他人ですが、となりという場所に居合わせただけで、特別な存在になります」「となり性は、あたかも気配のごとく私たちの周りに常にあって、可能性を与えてくれるのです。何も起こらないかもしれないけれど、何かが起こるかもしれない」と説明しています。これってまさにトトロそのもの! 『となりのトトロ』の「となり」とは、サツキやメイに対してのトトロという存在自体を意味しているのかもしれません。



 もちろんこれはひとつの考え方。正解・不正解はなく、人によってさまざまな解釈ができることでしょう。だから、本書では質問に対する回答部分に「ある一つの答え」と書かれています。これらはすべて著者の小川さんによるひとつの考え方でしかないからです。



 だから本書を読んで、「私はそうは思わない」「自分ならこう解釈する」という人もたくさんいるはず。でもそれでいい。この「正解がない問題をあえて考えてみる」ということがとても楽しく、本書でいうところの「哲学する」ということなのではないでしょうか。皆さんも本書をテキストに、ジブリ作品が持つメッセージについて「考える」ことの面白さを感じとってみてください。