小池百合子知事の誕生以来、注目を集め続けている東京都政。とりわけ、築地から豊洲への「市場移転問題」が多くのメディアで取り上げられていますが、なぜこんな混乱が起きてしまったのでしょうか?

 豊洲新市場に対して多くの都民、国民が不安に感じているのが、土壌に含有している有害物質(ベンゼン、シアン化合物など)の存在です。もともとこの場所に東京ガスの都市ガス製造工場があった頃の副産物ですが、現職都議である柳ヶ瀬裕文氏の著書『東京都庁の深層』によると、豊洲移転の議論の中で「『安全基準』を上回る『安心基準』が設けられてしまった」ことが、そもそもの混乱の原因だといいます。



 小池知事も、豊洲については「安全ではあるが安心ではない」と発言していますが、両者の言葉の違いは一体、何なのでしょうか? 柳ヶ瀬さんは本書の中で豊洲市場の「安心基準」を次のように述べています。



「具体的には、地下水を飲めるレベルの水質にする。話題となった盛り土によって既存の土地にフタをする、などといったことが挙げられる」(本書より)



 これらは土壌汚染による健康被害などを防ぐための法律「土壌汚染対策法」で定められた基準を大幅に上回る"安心"のために定められた基準で、そもそも豊洲の"安全"は満たされているということ。さらに柳ヶ瀬さんは、盛り土が実際に行われなかったのは手続き上、問題があるとしながらも、その背景を次のように説明します。



「なぜ、決まったことがなされなかったかを顧みれば、盛り土を施せば建物全体の構造を高くしなければならない、空間を設けなければ(註:汚染された)地下水が杭に沿って地表に出てきてしまう、といった事態が想定される」(本書より)



 盛り土以外の対策については、「都庁職員が専門家会議、技術会議で説明をし、きちんと対策の変更を講じるべきだった」と、やはり手続き上の瑕疵(かし)が混乱の原因にあると本書にて断じています。



 また、小池知事の市場移転に対する態度も、こうした混乱に拍車をかけかねないと、柳ヶ瀬さんは警鐘を鳴らします。というのも、知事が豊洲市場の開場を延期したことにより、都は50億円に上る業者への補償費用を計上。しかも、この額は現段階のものであり、実際には100億円以上が必要になるとの試算も出されているのです。しかし、小池知事は移転について「総合的に判断する」と発言するだけで、態度をはっきりとさせていません。



 7月に行われる都議選。その行方も大きな注目を浴びています。有権者は現在の都政、今後の都政について、いま一度考えてみてはいかがでしょうか。