(写真:BOOKSTAND)
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2007年にシンガーソングライターとしてデビューした前野健太さん。高校生のときに兄の言葉をきっかけに本を読み始めると、現代詩の虜となり、現在の作詞活動にも影響を与え続けているといいます。そんな前野健太さんに、前回に引き続いて本に関するお話を伺いました。そのなかでも今回は、特に衝撃を受けた作品についてお聞きしました。

------現代詩が好きというお話がありましたが、特に印象に残る出合いをした作家や作品はありますか?
「片山令子さんの『夏のかんむり』ですね。片山さんの詩と出合ったのは、高円寺の『ネルケン』(NELKEN)というクラシック喫茶でした。そこでA4の紙を三つ折りにしたような、200円の小さな詩集を買ったんです。それを帰りのバスのなかで読んで、すごい詩人がいるなと思って大きな衝撃を受けました。もともと詩は好きなんですけれど、田村隆一さんや黒田三郎さんなど、もう亡くなられている方が多くて、現役の方でこんなにすごい詩を書く人がいるんだって驚きました。そのあとすぐに片山さんの作品を調べて『雪とケーキ』『夏のかんむり』という2冊の本を買いました。これを読んだらやっぱりすごくて、僕は片山さんにはもっと詩を書いてほしいし、どんどん詩集を出してほしいと思っています」

------どういったところに衝撃を受けましたか?
「詩の内容はもちろんですけど、言葉の配列といいますか、そういうものが抜群なんです。片山さんの詩を読んでいると、同じ日本語でもちょっと組み替えるだけで、すごく鮮やかな、新しい歌心を感じられるんですよね。詩の奥深さや、詩を書くことの楽しさを大いに感じさせてくれます。たとえば『ミルキーウェイ』という詩があるんですが、片山さんのやわらかい日本語の中に、強い意志や大切にしている歌心のようなものを強く感じます。ほかにも『過ぎてゆく手とそのささやき』というタイトルなんかは最高ですよね。本当に鮮やかで抜群です。僕はもう、完全に片山さんに恋してますよ(笑)」

------現代詩以外にも衝撃を受けた作品はありますか?
「R-18文学賞大賞と山田周五郎賞を受賞した作品なんですが、窪美澄さんの『ふがいない僕は空を見た』という本に衝撃を受けましたね。読み終わったときに覚えているのは、本を読み終わると降っていた雨がいつの間にか止んでいて、道がすごくキラキラして見えたんです。読み始める前と終わったあとで街の景色がまったく違って見えて『あ、この世界で生きるのも悪くないな』と思えたんです。僕は、ボブ・ディランの歌から受けたような、とても強い衝撃を受けました」

------どんな内容の本なのでしょうか?
「R-18文学賞大賞を受賞しているだけあって、性描写が多いんですけど、性欲と愛情について描かれています。主人公は高校1年生の斉藤君。彼が主婦と何度かセックスすることで、性欲と愛情というものを感じながら、どこまでが愛情でどこからが性欲かということに向き合っていくんですが、その2つは分けられないんじゃないかと。性と愛ってドロドロと溶け合っている、そこを抱きしめるような強さを感じる本です。彼のお母さんは助産師さんで、家ではお母さんが助産師としてスタッフと頑張っている。そこで生きることと性が混然としていて、読むと『いろんなことを受け入れていこう、面倒くさいことを抱き締めてやる』という前向きな気持ちになります。おすすめです」

------前野健太さん、ありがとうございました!

<プロフィール>
前野健太 まえのけんた/埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。2007年自ら立ち上げたレーベル「romance records」からアルバム『ロマンスカー』をリリースしデビュー。以降、音楽活動と並行して、映画『ライブテープ』(2009)、『トーキョードリフター』(2011)、『変態だ』(2016)に出演し主演を務める。2016年には初のラジオレギュラー番組「前野健太のラジオ100年後」が放送開始となる。2017年には初舞台「なむはむだはむ」に参加し、3月には初のエッセイとなる『百年後』を発売した。シンガーソングライター、俳優、文章の書き手として、さまざまな場で活躍し続けている。