手づくり、伝統の味...と聞くと、自然に囲まれた庭に整然と並べられた料理や、柔らかな日差しに包まれたファンタジックな風景、自分たちの生活とはかけ離れた理想の暮らしを思い描く人も多いのではないでしょうか。ところが、それはいい意味で裏切られます。本書で紹介するのは料理だけではありません。それぞれの家庭の居間や、おばあちゃんたちの牙城ともいえる台所、そしてなによりおばあちゃんたち自身が主役となっているのです。見とれるような美しい景色はありませんが、そこに遠い異国の人たちの日々の暮らしが垣間見えるようで、自然と顔がほころびます。
小さな田舎町で旬のごちそうを食べて育ち、母や祖母が愛情こめて作ってくれたランチを学校に持っていったというガリンベルディさん。世界を旅して回るという彼に、祖母がかけた最初の言葉は「食事はどうするんだい?」だったそうです。このセリフ、親元を離れて暮らしている人は皆、思い当たる節があるのではないでしょうか。仕事より、環境よりもまず食事の心配をする祖母にガリンベルディさんはこう言うのです。
「だいじょうぶだって。世界中どこにでも、料理上手のおばあちゃんはいるんだから。みんな孫のために愛をこめて料理を作ってる。」(本書より)
そんなガリンベルディさんだからこそ、家族のために料理を作るおばあちゃんたちの愛情を写し撮れるのかもしれません。料理の写真は、材料を並べた状態と出来上がりを比較できるビフォーアフターとなっていますが、実はここにも遊び心が満載。野菜や肉が直線に並べられたり、放射線状に広がったり、ぐるりと円を描いたりと、その光景はさながら命を育む曼荼羅のよう。そして、その曼荼羅の中心にいるのがおばあちゃんたちなのです。美味しそうな出来上がりに目が行く前に、おばあちゃんたちのいわゆる"ドヤ顔"にほっこりすること請け合いです。