人生の最期に向けて準備をする「終活」という言葉がありますが、お墓について考えたことはありますか? 日本人で初めてACAU(全米墓園協会大学)を卒業し、世界45カ国を旅して墓石・霊園行政研究などを行ってきた日本のお墓研究の第一人者、長江曜子氏が監修した『世界のお墓文化紀行』は、たいていの日本人が持っている「お墓」に対する固定観念を壊し、自らの死生観を見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊です。



 本書では古代エジプトの墓やアルジェリアのサハラ砂漠の墓地、モンゴルの大草原の墓地、インドネシアで雑貨店の店先に並ぶ墓、断崖から棺を吊るすフィリピンの墓地など、世界51カ所の様々な墓地や墓石が紹介されています。カラフルで可愛らしい墓標や自然に囲まれた絶景の中の墓地、台湾やチベットの珍しい葬式など、どれも日本人が思い描く墓地や葬式のイメージとは異なるものばかりです。



 写真集としてそれらを眺めるだけでも十分楽しめますが、お墓研究者であり文化人類学者、民俗学者でもある長江氏の監修だけあって、土葬、火葬、散骨といった「世界のお墓」を知るための基礎用語や基礎知識、国別の火葬率などもあり、単なる「面白いお墓を集めた写真集」とは一線を画しています。



 各国の墓地事情についても触れられていて、「北欧では、埋葬税や教会税が生前に給与から引き落とされ、死んだ後お墓に困ることがなく、死後のセーフティネットがしっかりしている」(本書より)とする一方、「世界一窮屈」なのは香港で、今や富豪といえども郊外の霊園などに入るのは難しく、ロッカー式の納骨堂に入るのが普通なのだそう。



 「それでも公営の納骨堂はすでに飽和状態、順番待ちの状況で、関係者によると、民間の納骨堂の場合は、100万香港ドル(約1350万円)払っても、確保できるスペースはわずかA4サイズほどだといい、庶民にはとても手が出ない」(本書より)。これには、まったく驚かされます。



 そもそも墓地というのは死者のための場所で、生者の世界とは相容れないという考えが一般的かもしれません。しかし、長江氏はこう言っています。



 「墓地は廃墟であると言う人がいるかもしれない。しかし墓参の人々が絶えない墓地は、人間がいなければ存在しえない追悼の場所である」(本書より)



 生きている人がいてこその墓地、そう考えるとお墓をぐっと身近に感じられます。理想のマイホームならぬ"マイお墓"を想像するのも楽しいかもしれません。