『東大VS京大 入試文芸頂上決戦』永江朗 原書房
『東大VS京大 入試文芸頂上決戦』永江朗 原書房

 センター試験も終わり、今年もすでに大学入試シーズン真っ只中。受験する各大学ごとの過去の入試問題を前に、最後の追い込みをしている受験生も多いのではないでしょうか。

 そんな数々の大学のうち、日本の東西をそれぞれ代表する最難関大学ともいえるのが東京大学と京都大学ですが、永江朗さんによる『東大vs京大 入試文芸頂上決戦』では、戦後、大学の学制改革がスタートした1947年から2016年までの両学における"国語"の入試問題に注目しています。

 中でも現代文の出題について、その出題年の社会状況を解説したうえで、それぞれ実際の入試問題文を掲載しながら、「何が違って、何が共通しているのか、時代はどのように反映されているのか」(本書より)を読み解いていきます。

 たとえば、2013年2月に実施された国立大学入試、前期日程において、東大・文理共通で出題された現代文は、フランス文学者であり翻訳者としての顔をも持つ湯浅博雄が"翻訳"について語った「ランボーの詩の翻訳について」(『文学』2012年7・8月号に掲載)。

 この2013年の入試問題が作成された2012年は、「在特会などによるヘイトスピーチ、ヘイトデモが激化した時期」(本書より)だったと振り返る永江さん。そしてその要因として「インターネットの利用者が増えたことが大きいと思う」(本書より)と述べ、「インターネットは異なる文化を結びつけるどころか、むしろ分断し、対立をあおるかのように見える」(本書より)と指摘しています。

 いわばインターネットによって加速した嫌韓が顕在化した2012年----こうした時代背景を受け、東大の教員たちが、「『諸々の言語・文化の差異のあいだを媒介し、可能なかぎり横断していく営み』としての翻訳を語る湯浅の文章を出題文とした意義は大きい」(本書より)のだと永江さんは説きます。

 一方で、同じく2013年、京大・文理共通の現代文は、1976年に出版された中江孝次『ブリューゲルへの旅』から、さらに文系は1957年に発表された幸田文「旅がへり」から出題。先の東大の出題が2012年と同時代のものだったのに対し、少し時代を遡った文章からの出題となっています。

 ここに象徴されるように、約70年分に渡り、それぞれの過去問を辿っていく中で、永江さんは、「東大は世の中の流行に敏感で、新しい作品を出題文に使う傾向がある。京大はわりと古い作品を発掘してきて出題文に使う」(本書より)傾向があるのではないかと分析します。

 東大と京大、各年代において、それぞれどのような文芸作品が選ばれてきたのか。それらを通し見えてくるものとは何なのか。受験という枠組みだけに留まらない、興味深い一冊となっています。