"イギリス人の生活には欠かせない存在""誰もが職場と自宅の近くに行きつけの一軒を持っている"などともいわれ、イギリスらしさの象徴となっている存在、パブ。どんな田舎町にも教会とパブだけはあるというほど、人びとの生活に溶け込んでいるパブですが、ここ30年あまりでその数は減少。1982年に6万7800軒あったパブは、2014年には5万1900軒と、約23パーセント減ってしまったのだそうです。とくにロンドンでは、地価の上昇からパブが閉鎖され、スーパーへと転用されるケースが増えているとのこと。



 そもそもパブ、すなわちパブリック・ハウス(public house)とは、酒を販売し、客に呑ませる場所であると同時に"共同体の拠点"や"社会基盤"でもあり、パブリック(公衆、一般、公共)な役割を期待されてきた存在。そんな人びとの交流の場について、書籍『酒場天国イギリス』のなかで「英国パブはいまだ健在だが、大きな曲がり角に差し掛かっている」と述べるのは小坂剛さん。本書は、イギリスに詳しい識者たちとの、酒場での一杯をともにしながらの対談を通し、パブについて考えることで見えてくるイギリス社会、その本質を浮かび上がらせた一冊。



 本書に収録されている対談相手のひとりであり、現在ロンドンにて日系の大手銀行に勤務している坂次健司さんは、お酒と、自らの職業である金融、それらに通底するイギリスの本質を指摘。一例として、イギリスを代表するビートルズの楽曲の歌詞を挙げながら説明します。



 ビートルズの『Hello Goodbye』の歌詞"You say yes, I say no."という部分の意味が最初はわからなかったという坂次さん。しかし、13年イギリスに住むことで、まさにこの言い回しはイギリスの精神を表しているのだということに気が付いたのだといいます。



「イギリス人は絶対に同調しないよ。だれかがイエスっていったら別な人がノーっていう。ハローっていったら、グッバイっていう。バランスのある国だなと思った。みんなでイエスというのは危ない国、全体主義。必ず対比させる。面白い国、論争させる国だよね。ティーもウイスキーもブレンドがうまい。金融でいうとアセットマネジメントの運用が巧み。一色に塗りつぶすグローバルじゃなくて、各人の特色のバランスを取るインターナショナルなやり方が見事」(本書より)



 見知らぬ人同士が気軽に酒を呑みながら、歓談を繰り広げる場であるパブ。"パブを語ることは、イギリスらしさを考えることにほかならない"という小坂さんですが、本書を読めば、イギリスにとってパブが如何に重要なのかが伝わってくるはずです。