2016年6月13日、下北沢のB&Bで、ライフネット生命保険株式会社の出口治明さんの著書『働く君に伝えたい「お金」の教養: 人生を変える5つの特別講義』刊行記念のトークイベント「出口さん、お金って何ですか? 働くって、どういうことですか?」が開催されました。フリーランサーでコラムニストの安藤美冬さんを聞き手に、将来の不安にあえぐ若者に必要な、「お金についての考え方」だけでなく、示唆に富む話を語っていただきました。

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 上向きになりつつあると言われてはいても、長く続く世界的な不況に、現代の若者たちは将来を不安視していると言われます。しかし実際には、社会生活を営んでいる以上、今も昔もお金の問題は大して変化していない、と出口さんは語ります。


 そこで安藤さんが「では昔の人たちも同じような不安を抱えていたのでしょうか?」と問うと、「昔の人はそれほど悩まなかったと思う」と返答し、こう続けます。


「それはメディアというものが今ほど発達していなかったから、周囲の人たちからの話が中心だったからです。同じ生活圏の人同士なら同じような生活だから、今のように年金が破綻するなんて国家レベルのニュースに振り回されることもなかったはず。 アジテーション能力の高いメディアによって、不安が増幅されているわけです」


 こうした不安をひとつひとつ潰していってくれるのが出口さんの著書、と安藤さんは説明します。それを受けて、出口さんは次のように話してくれました。


「不安に立ち向かうには、その不安がホンモノかどうかを考えてみたらいい。お金に対する不安のベースになっているのは、年をとったら定年で仕事を辞めるのを前提としているから。でも、団塊の世代はもうすぐ死んじゃいますし、少子化も進んで、2030年には労働力が800万人不足するといわれています。となると、年齢に関係なく、働きたいと思ったら職にあぶれるなんてことはないことがわかりますよね」


 続けて、多くの若者が抱く「自分たち世代は年金がもらえないのではないか」という不安について、出口さんはこう説きます。


「近代国家では国より安全な金融機関はありません。国が破綻しなければ年金は入ります。現在の国の状況自体に不安を感じるのかもしれませんが、国というのは僕たち国民が作るもの。選挙に行って投票することで国を作り変えることだってできるわけです」


 安藤さんはテレビ、雑誌、新聞、ネットとあらゆるメディアで情報が溢れている現代において、賢く情報と付き合うためのリテラシーを身につけるにはどうしたらいいのかと、出口さんに問います。

 対する出口さんの回答はシンプルそのものでした。


「その種の本について、ベストセラーになる本はだいたいトンデモ本だと思っていいです。たとえば英語教材本コーナーには、短期間で英語をマスターみたいな本が山積みされてますよね。そんなわけない。頑張って勉強するから上達するんです。でも、そんなタイトルの本は売れない。そういう理屈から、売れているのはトンデモ本と思っておくこと」


 ライフハック系のベストセラー本は、最小の努力で最大の効果が得られることを謳うものが多いですが、たしかにそんなに「おいしい話」はないのかもしれません。


 その上で、出口さんはこう言います。


「データを鵜呑みにしないで、自分の経験と頭で考えた上で、本当だなと思える情報を信じていけばいい。それに10年先のことなんてわからない。キャリアアップ設計を考えたりなんてしないで、自分がその都度やりたいことをやっていく、川の流れに流されていくのが一番いいと思いますよ」





【プロフィール】
出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長兼CEO。1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。主な著書に『生命 保険入門 新版』(岩波書店)、『直球勝負の会社』(ダイヤモンド社)など多数。

安藤美冬(あんどう・みふゆ)
フリーランサー、コラムニスト。1980年生まれ、東京育ち。慶應義塾大学在学中にアムステルダム大学に交換留学を経験。株式会社集英社に新卒入社後、ファッション誌の広告営業と書籍のプロモーション業務を経て2011年に独立。組織に属さないフリーランスとして、ソーシャルメディアでの発信を駆使した、肩書や専門領域にとらわれない独自のワーク&ライフスタイルを実践、注目を浴びる。
公式HP http://andomifuyu.com/