工藤さんが聞き取りをしたドライバー約100人のうち、幽霊の証言をしたのは4人。工藤さんはこれらの証言から、いずれの幽霊も"季節外れの真冬の格好で、若年層に見えた"という共通項を見出します。



 震災で娘を亡くしたというドライバーは"最初は怖かったが、震災で亡くなった人の中にはこの世に未練を残した人がいて当然。また同じような季節外れの冬服の人がタクシーを待っていたら、普通のお客さんと同じように乗せる"と証言。聞き取りを重ねた工藤さんが感じたのは、震災で亡くなった人に対する畏敬(いけい)の念。幽霊発生の背景には、死者への畏敬の念と、震災を体験した石巻市の地域性があるのではないかという考察をしています。



 復興が進む一方で、震災死に直面した人々の心のケアが置き去りにされている現状。工藤さんはじめ、同大の学生たちが丹念にフィールドワークを重ね、被災地の声を掬い取った成果である同書は、メディアが伝えない被災地のリアルを伝える1冊となっています。