日本全国の書店員さんが、自分で読んで「面白かった」、「自分の店で売りたい」と思った本を選ぶ「本屋大賞」。過去には『海賊とよばれた男』(百田尚樹著)、『舟を編む』(三浦しをん著)など、多くの話題作が選出されてきました。1月20日に発表された今年のノミネート作品は、ミステリー3冠作品、直木賞候補作など話題作揃い。そこで、BOOKSTANDでは、ノミネートされた10作品を順々に紹介していきます。



 今回取り上げるのは、又吉直樹さん著『火花』。



 芸人でもある又吉さんが書いた本作は、文芸誌『文學界』2015年2月号に掲載され、3月には単行本化、その後の芥川賞受賞の反響もあって、200万部を突破するベストセラーとなりました。



 今や存在を知らない日本人はいないのではないかと言えるほど"国民的"小説となった『火花』ですが、その内容を把握している人はどれほどいるでしょうか? 純文学の賞である芥川賞を受賞したことで、かえって「難しい内容なのでは」と敬遠されている方もいるかもしれません。また、又吉さん自身、太宰治好きを公言されているだけあって、文学青年が好むような気取った文体ではないか、と思っている方もいるのではないでしょうか。



 しかし本作に関しては、そんな心配はご無用。日常的に使われる普通の、それでいて又吉さんのセンスを感じる言葉遣いに、どんどん作品の世界に引き込まれてしまいます。



 また、売れない芸人と、笑いに命を燃やす先輩芸人との交流を描くストーリー設定や、作中で綴られるエピソードの数々も、非常に情景が浮かびやすいものとなっており、そこも多くの読者に共感を得ているポイントのようです。



 ちなみに、ここ最近でダブルミリオン(200万部以上)を達成した小説は『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海著、2009年刊行)、『東京タワー』(リリー・フランキー著、2005年刊行)といったところ。滅多に出ないダブルミリオンの、そして"国民的"ともいえるこの小説を見逃すのは、ちょっともったいないといえるのではないでしょうか。