ビジネス上ではもちろん、日常生活においても何かと必要になってくる"交渉力"。しかし、緊張からいつもより早口になってしまったり、自分の主張を相手に伝えなくてはならないと気ばかりが急くことも。思うように上手く事が運ばないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。



 本書『心を動かす交渉上手の思考法』では、裁判官として、そして弁護士として多くの交渉を経てきた八代英輝さんが、自らの経験を通し、交渉上手になるためのポイントをわかりやすく解説していきます。



 まず、ビジネスの場における交渉では、必ず15分前には現地に着くことが重要。



「交渉においては、自分が不利になるような状態は、たとえそれがささいなことであっても絶対に避けるように気をつけなければならない」(本書より)と八代さん。



 待ち合わせ場所に1分でも遅れてしまうと、それだけで相手に借りをつくることになり、交渉を進めるにあたって、精神的に不利な状態からのスタートを余儀なくされるのだと指摘します。



 しかし万が一、遅刻をしてしまうような場合には、こまめに連絡を入れながら、今どこにいるのかといった自分の状況を逐一説明。その都度謝罪するようにしましょう。



 次に、交渉の場では窓を背にして座ること。



"取り調べをするときは、窓を背にしろ"と、八代さん自身、検事の研修時に言われたことがあるそうですが、窓を背にすることには2つの効果が。



 1つ目は、自分が窓を背にして座れば、相手は窓に向かって座ることになり、相手方からこちらの表情が見えづらくなるという視覚的効果。シビアな交渉の場では、一瞬の表情の変化から心を読まれてしまい、流れが変わってしまうことも。常にポーカーフェイスで対応することが鉄則ですが、表情の微細な変化を悟られないために、視覚的効果の力を借りてみるのもいいかもしれません。



 2つ目は、相手に与える心理的効果。窓に向かっていると、その窓から射し込む光によって常に相手は眩しさを感じることになりますが、人間はこうした状態に置かれると、圧迫感や緊張感に襲われやすくなるそうです。



 そして、時候の挨拶や天気の話、最近の話題などを一通り終え、いよいよ本題、交渉に入ろうというとき。まずは相手に必ず"イエス"と言わせるような質問を。



「『前回までのお話をまとめると、首都圏を中心に販売促進を行なうということでしたね』というふうに、あえてハードルの低い、たとえば確認を取るような質問をして、相手から『イエス』という言葉を引き出すのである」(本書より)



 交渉では、なるべく相手に"イエス"と言わせる場面を多くするに越したことはないと八代さんはいいます。特に最初のネガティブな印象は記憶に残りやすいため、まずは"イエス"と答えざるを得ない質問をすることによって、スムーズに交渉をスタートさせましょう。



 相手を納得させた上で、有利に交渉を進めていくための心得の数々。あらかじめ意識しておくと、良い結果に近づけるかもしれません。