お礼状、詫び状、お祝い状、依頼状、お悔やみ状、案内状といった、あらゆる種類の手紙。相手に失礼になることなく、かつ思いの伝わる文章を綴りたいものですが、気の利いたフレーズが思い浮かばず、つい定型表現に陥ってばかりという方も多いのではないでしょうか。



 企業や店舗からの依頼を受け、30年間に渡り30万通以上、あらゆる手紙の代筆をしてきたという亀井ゆかりさんが参考にしているのは、正岡子規、石川啄木、三島由紀夫、川端康成、夏目漱石、芥川龍之介をはじめとする、文豪たちの書いた手紙。一流の文豪や著名人たちの手紙は、言葉のバリエーションが上質かつ豊かであるため、大いに参考になるのだといいます。



『文豪に学ぶ超一流の手紙術』では、文豪や著名人たちの膨大な手紙のなかから、亀井さんが選りすぐった今すぐ使える文章表現、フレーズの数々を紹介。12月に入り"年賀状"を書きはじめる方も増える時期ですが、その際にさっそく使えそうな表現も本書では紹介されていきます。



 たとえば、人気SF作家・星新一さんの年賀状は、どの年のメッセージも思わず拝借したくなるようなアイデアに満ちたものだといいます。



 なかでも昭和51年の年賀状はユニークなもの。



「賀正 昭和五十一年元旦 端正 清澄 長寿 樹木 目的 適切 節制 成功 高級 究明 迷案 安泰 太陽 要請 精選 専念 年賀」と、1年の抱負となりそうな単語でしりとり遊びをしているそうです。



 続いて平成2年の年賀状は、「ウマの年ですが、コアラのようにすごしたいと思います。あれは夢を見ているのですよ」と、干支とは異なる動物で今年の抱負を述べているそう。



「干支と文章やイラストをからめるいいアイデアが思い浮かばず、困ったときにこれは使える手で、参考になります」(本書より)と亀井さんは指摘。



 たとえば「ウシの年ですが、イルカみたいにすごそうと思います。海中から空高くジャンプ!」あるいは「ヘビの年ですが、ネコのように今年は人に惑わされずマイペースですごします」といったように使用してみてはどうかと提案します。



 また、星新一さんの年賀状は印刷であっても、オリジナルの文面かつ署名は必ず自筆だったといいます。このように、1年に1度の年賀状、送る相手ひとりひとりの顔を思い浮かべながら、手書きで送るのが理想だと亀井さんはいいます。



 キャッチコピーのように目をひいたりするようなものでなく、さりげなく心にすっと入ってくる言葉。なんでもないフレーズなのに、シーンや状況によって不思議にきらめくメッセージ。どう表現したらいいか悩むような心境を、ズバリ表した見事な言い回し......等々が満載の本書。年賀状はもちろん、さまざまなシーンに応じた手紙を書く際の参考になるのではないでしょうか。