日本全国に約1400万個あるといわれる、マンホール。どれも同じようなものかと思いきや、その蓋の絵柄を眺めてみると、実に多種多様。それぞれの土地独自の趣向を凝らした、デザイン性に優れた絵柄のものがたくさんあるのだといいます。



 マンホールの蓋が持つデザインの面白さに魅了され、20年近くに渡り、1600以上ものマンホールを訪ね歩いて撮影してきたという石井英俊さん。本書『マンホール 意匠があらわす日本の文化と歴史』では、これまで石井さんが撮影してきた豊富な写真とともに、全国各地のユニークなマンホールの蓋の数々が紹介されていきます。



 そもそもマンホールとは、「地下構造物を保守管理するための地上との連絡口」であり、その蓋の重さは50キログラム以上。下水道は各市町村がおこなう事業であることから、マンホールの蓋は市町村が独自に制作しているそうです。



 そのため蓋の絵柄には、それぞれの市町村のシンボルである花や木や鳥、あるいは建築物や城、祭りや郷土芸能、名産品といったものまで、さまざまなデザインが施されているのだといいます。



 たとえば、東京都におけるマンホールの蓋の絵柄は、都の花ソメイヨシノ、イチョウ、ユリカモメがデザインされたもの。多摩地区では、多摩川やアユを中心に多摩の風景が描かれ、そのマンホールの置かれた場所から多摩川までの距離も刻印されているといいます。



 あるいは少しユニークなものとして、広島市では、折鶴(千羽鶴)、鯉、紅葉のデザインの他に、広島東洋カープのマスコットキャラクターである、カープ坊やのデザインされたものも。



 さらに、「サ」が「9」つ描かれる草津町、「ト」が「3」つ描かれる水戸市......といったものまで、それぞれの地域独自のデザインを見つけることができるのだそう。



 現在では、有名なデザイナーに依頼する場合もあるというマンホールの蓋ですが、このように地域の特色をデザインするようになったのは、昭和60年代からのことだと石井さんはいいます。



「建設省公共下水道課建設専門官が、下水道事業のイメージアップと市民へのアピールのために、各自治体が独自のデザインマンホールにすることを提唱し、デザイン化がはじまったといわれています」(本書より)



 ちなみに、「諸外国のマンホールは、ごく一部を除いては滑り止めのための模様があるだけで、日本のような市町村の特徴を描いているものはない」とも石井さんは指摘します。



 普段、特別気に留めることも少ないマンホールですが、ときには下を向いて、面白いデザインのものがないか注目してみると、意外な発見の数々が待っているかもしれません。