今年5月28日に、大腸がんのため、54歳で急逝した俳優・今井雅之さん。最期まで役者としてもう一度、舞台に立つことを公言されていましたが、その夢も叶わぬものとなってしまいました。そんな今井さんがライフワークとしていた舞台『THE WINDS OF GOD(ザ・ウインズ・オブ・ゴッド)』とは、どのような作品だったのでしょうか。



 同舞台は、タイトル通り、神風特攻隊員を描いた作品。売れない漫才コンビ「アニキ」と「キンタ」が交通事故に遭い、終戦を目前に控えた1945年8月1日の特攻隊員にタイムスリップしてしまう......という奇想天外な展開で始まります。



 原作・脚本・主演の三役をこなした今井さんは、1991年には、文化庁主催芸術祭賞を受賞。1999年には、ニューヨークのオフ・ブロードウェイでも上演を果たしています。



 今井さんの著書『特攻隊と戦後の僕ら―「ザ・ウインズ・オブ・ゴッド」の軌跡』によれば、当初は、特攻隊というテーマはなかなか理解されず、周囲から「今井は右翼だ」「今井は元自衛官だから戦争が好きなんだ」と誤解されたこともあったのだとか。



 実は、今井さん自身も、当初は、敵艦に突っ込んでいく特攻隊に、カッコイイ"サムライ魂"を感じ、まるで正義のヒーローのように美化してとらえていました。しかし、脚本を書くため、生き残った元特攻隊員に接するうちに、その考えは一変します。



 あるとき、特攻隊の分隊長をしていた70歳代の男性に会う機会があり、今井さんは、部下に出撃を命じながら、自分1人だけ生き残った気持ちを尋ねたことがありました。すると、男性は無言で目に涙をため、必死に泣くのをこらえていたそうです。その横顔を見た瞬間、彼らにとって、戦争はまだ終わっていないことに気が付きます。



 100人近くの元特攻隊員にインタビューを重ねた今井さんは、時代と教育が違うだけで、彼らも自分たちと変わらない若者だったと知り、"単純に「特攻隊、かわいそうだね」という同情目線では見てほしくない。戦時下の極限状態に置かれた状態や、集団ヒステリー状態の心理、若い彼らのエネルギーが戦争に使われてしまった意味を考えてほしい"と考えるようになったのです。



 物語終盤で、今井さんは自身が演じるアニキに、以下のようなセリフを言わせています。



「お前な、もっと素直になれよ......。女、好きだろ、抱きたいだろ、結婚してガキの一人でもつくって......男の夢追っかけて、力いっぱい生きて行くのが、俺たち若者の特権だろう......。肉体がバラバラになって吹っ飛ぶのがお前たちの青春なのか......。なにがお国のためだ、なにが天皇陛下万歳だ、そんなものクソッくらえだ!」(本書より)



 今井さんが同作で本当に伝えたかったことは何だったのか、戦後70年の今年、現代に生きる私たちが平和な時代に生きられる意味を改めて考えてみてはいかがでしょうか。





【関連リンク】

THE WINDS OF GOD(ザ・ウインズ・オブ・ゴッド) 公式サイト

http://windsofgod.com/