そうした時代において、1973年に登場したのがユーミンこと荒井由美。それまでのシンガー・ソングライターがジーンズ姿で黙々と歌う中、ドレスを着たりターバンを巻きつけたりしながら歌う華やかな彼女の姿は、一種の異質な光を放っていたようです。



 デビュー前のユーミン。そのデモテープを聴いた富澤さんは、「メロディラインも歌詞も、それまでの自己主張の強いフォークとはまったく違う洗練された音楽」、「生活臭など一切感じさせないイメージの世界で、まるで印象派のモネやシスレーの爽やかで上品な風景画を見るよう」な印象を受けたと、本書の中で当時を振り返ります。

それまでの個人的心情を訴えたフォークを「四畳半フォーク」と言い放つ新鮮な感覚。新たな物の見方。それは、「それまでの音楽が『好きです』という言葉を何十回も繰り返していたのが、たった一回のキスでその気持ちを伝えたようなものなのであった」(本書より)といいます。



 またユーミン本人も、自身の音楽について、「朝起きてふと聴きたくなるような、夜眠る時また聴きたくなるような、そんなイージーリスニングのような音楽」と述べていたそう。こうして衝撃を伴って迎えられたユーミンは、フォークに新たな風を送り込み、ニューミュージックを代表する歌手になっていったのです。



 アーティストたちと関わり、共に生きてきたからこそ伝えることのできる貴重な証言。この機会に是非触れてみてはいかがでしょうか。