坂本龍馬、大杉栄、ウォルト・ディズニー、スティーブ・ジョブズ......。これらの偉人たちには、ある共通するパワーの源があったのだと指摘するのは、作家・アイドル評論家である中森明夫さん。



 中森さんが見出した、偉人たちに共通するパワーの源とは、人間の複雑な感情のなかのひとつ、「さみしさ」。



 一見「さみしさ」はネガティブなものとしてとらえがちです。しかし、中森さんは、この「さみしさ」こそが、人間のもっとも強い力であり、無限の可能性を秘めているのだと、本書『寂しさの力』の冒頭で述べます。



 パワーの源としての「さみしさ」。



 たとえば、1983年の開演以来、入場者数は6億人を突破するなど、日本でも老若男女に人気のあるディズニーランド。そこではメルヘンから冒険ものまで、まるで夢のなかの世界で遊んでいるかのような感覚をおぼえることができます。



 このディズニーランドを作った男、そして『白雪姫』『ピノキオ』『ファンタジア』『バンビ』『ダンボ』等の言わずと知れた名作の数々を世に送り出した男こそ、ウォルト・ディズニー。



 今でも世界中の多くの子どもたちに夢を与えるディズニーの作品ですが、自身の子ども時代は辛くさみしいものだったといいます。その父親は厳しく、ウォルトは幼い頃から働かされ、今でいう児童虐待のようなことをされていたことも。遊ぶ時間もなく、オモチャ一つ買ってもらえなかったのだそうです。



 そのため、ディズニーランドには、自分が子どもの時分に欲しくても手に入れることのできなかったものを盛りこんだのだといいます。



 中森さんは次のように指摘します。



「つまりディズニーランドとは幸福な子供時代の再現ではなかった。まったく逆です。不幸な子供の夢見た世界だった。存在しなかったそんな夢の楽園を、晩年のディズニーはこの世に実現させたのでした」(本書より)



 夢の国・ディズニーランドが生み出された背景には、子ども時代に味わった「さみしさ」の力があったのだといいます。



 本書では、こうした偉人たちをはじめ、美空ひばり山口百恵といった芸能人たちの「さみしさ」、そして中森さん自身の「さみしさ」についても考察が及びます。



 スティーブ・ジョブズのあまりに有名な言葉、「Stay hungry! Stay foolish! 」(ハングリーであれ!愚かであれ!)。この言葉に、「Stay lonesome! 」(さみしくあれ!)と、つけ加えたいという中森さん。自分のなかの「さみしさ」から目をそらさずに向き合ってみることも、時には重要なのかもしれません。