イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」を名乗るグループにより命を奪われた、フリージャーナリストの後藤健二さん。殺害された2月1日以降、後藤さんの過去のTwitterでの発言にも注目が集まり、なかでも2010年9月7日でつぶやかれた"目を閉じて、じっと我慢。怒ったら、怒鳴ったら、終わり。それは祈りに近い。憎むは人の業にあらず、裁きは神の領域。-そう教えてくれたのはアラブの兄弟たちだった"のツイートは、3万5千回以上もリツイートされ拡散し続けています(2月4日現在)。



 また、Twitterの言葉だけでなく、後藤さんの著作も関心を集めております。後藤さんが汐文社から出版した4冊の著作は、子ども向けに平易な文書で書かれた児童書で、アマゾンでは、『ダイヤモンドより平和がほしい― 子ども兵士・ムリアの告白』が1位、『もしも学校に行けたら―アフガニスタンの少女・マリアムの物語』が2位、『ルワンダの祈り―内戦を生きのびた家族の物語』が4位、『エイズの村に生まれて―命をつなぐ16歳の母・ナターシャ』が8位、と、著書すべてがランキング上位となっています(2月3日現在)。



 2005年出版の本書『ダイヤモンドより平和がほしい― 子ども兵士・ムリアの告白』でルポルタージュしたのは、アフリカ西部シエラレオネの「子ども兵士」。戦闘時にはカミソリで皮膚を切り裂いて麻薬を埋め込まれ、無理やり"殺人マシーン"にされた少年たち。彼らはある日突然、目の前で家族を殺され、連れ去られて兵士の訓練を受けさせられたのだといいます。後藤さんは、そんな彼らの素顔に迫り、本書で産経児童出版文化賞・フジテレビ賞を受賞しています。



 後藤さんの最後の著作となったのが、アフガニスタンのタリバン政権崩壊後に、アメリカの空爆被害を受けた一家に1年近く密着して2009年に出版した『もしも学校に行けたら―アフガニスタンの少女・マリアムの物語』。



 同書の「あとがきにかえて」で、彼はこう述べています。



「わたしは、なぜ、この戦争と避難民の存在が日本であまり知られていないのか、大きなショックを受けました。わたしたちは、単なる事件事故のニュース、アメリカ軍の動きばかりに気を取られすぎているのではないか?『対テロ戦争』『テロとの戦い』とわたしたちがまるで記号のように使う言葉の裏側で、こんなにたくさんの人たちの生活がズタズタに破壊されていることを、知らないでいたのです、あるいは知らせずにいたのです。自分は、いかに盲目的だったかと激しく自分を責めました」(同書より)



 内戦・紛争地域をはじめ、過酷な環境下で生きる親子・家族、特に子ども達に焦点を当てて取材を続けてきた後藤さん。今回の事件を契機に、著書が続々とベストセラーになっている背景には、「彼が伝えたこととは何だったのか知りたい」という人々の気持ちの表れなのかもしれません。