日本文学研究者、文芸評論家、そしてコロンビア大学名誉教授として、92歳となった現在でも活躍されているドナルド・キーンさん。セゾングループを率い、パルコをはじめ数々の文化施設を創設し、「セゾン文化」と評されるほど文化に大きな功績を残す一方、自らも辻井喬として詩作に励む等、芸術に造詣の深かった堤清二さん。



 本書『うるわしき戦後日本』では、戦後の日本文化に大きく貢献してきたこの二人による、日本文化を巡る対談に加え、2014年9月に行われたドナルド・キーンさんへの最新インタヴューを収録しています。



 戦後の日本文化、そして日本人の美意識を考えていくなかで、その起源を二人は東山文化----京都東山に隠居した足利義政が作り上げた、書院造りの銀閣寺、水墨画、茶の湯、連歌、能に代表されるような文化----にみます。



「(中略)建築、あるいは美術、生活様式についての日本人の好みに関しては、応仁の乱の直後に芽吹いた東山文化が決定的な役割を果たし、それが現在までずっと続いていると思います」(ドナルド・キーンさん)



 そして堤清二さんのはじめた「無印良品」のコンセプトも、東山文化に象徴されるような、質素さや余白の美を重要視し、見る側の想像力に委ねる姿勢を汲んだものなのだといいます。



「『無印』というのは消費者が主人公で、自分の好きなように生活空間を整えるというのが、開発の大前提にありました」(堤清二さん)



 さらに同書では、日本文化を構成する重要なものとして、文学に焦点を当てます。そこでは二人と交流のあった文学者である三島由紀夫や安部公房、吉田健一たちとのエピソードが語られ、日本文学は海外でどのように受容されているのか、その魅力とはどのような点にあるのかといった文学論が交わされていきます。



 戦後の日本文化に大きな役割を果たしてきた二人の言葉。これからの日本の文化を考えていくうえでも、その言葉から学ぶべきことは多々あるのだと言えるのではないでしょうか。