"やっぱり母乳じゃなきゃ"

"粉ミルクなんて邪道だ"

"母乳じゃないと母子間に愛情が育たない"



 新米ママが幾度となく耳にする、絶対母乳推進派、いわゆる"おっぱい右翼"からのこうした言葉。助産師はじめ医療機関、あるいは姑や親戚、時には見知らぬオバサンからも、そんな完全母乳を進める言葉を浴びせられて、心が折れそうになっているママも多いのではないでしょうか。



 もちろん、生後1~2日に分泌される初乳には、免疫グロブリンAなど赤ちゃんの免疫力を高める成分が含まれるので「できるだけ母乳で」という考えは医学的にも根拠があること。しかし、産婦人科医・宋美玄(そん みひょん)さんは、本書『女医が教える これでいいのだ! 妊娠・出産』の中で、粉ミルクを一切使用せずに、母乳を極端に推進する行為は"キツすぎの母乳教"および"母乳原理主義"でしかないと指摘し、スパルタ式に「完全母乳育児」を推進する風潮を懸念。



 現実問題として、どう頑張っても母乳が出ないママがいるのも事実。いくら母乳の成分が優れているとはいえ、産後のボロボロの体で、お腹を空かせて大泣きする赤ちゃんを抱えて1日に10回も出ないお乳を含ませる、という過酷な行為が、本当に必要なのでしょうか? と疑問を投げかけます。



 良かれと思ってかける言葉でも、"哺乳瓶は悪""出るまで頑張って"といった言葉は、逆に新米ママたちのメンタルを追い詰め、傷つけるだけ。母乳にはストレスが大敵、母乳が出ない罪悪感に駆られて、ますます出なくなるという悪循環にもなりかねません。



 本書によれば、充分な睡眠をとるとプロラクチンというホルモンが出て、母乳が出やすくなるそうです。母乳が出ないときは、無理に与えようとせずに、粉ミルクを使ってもいい。ぐっすり眠って体を休め、まず自分の体を大事にしてほしいと訴えています。



 これまでにも、『産科女医が35歳で出産してみた』(ブックマン刊)や『女のカラダ、悩みの9割は眉唾』(講談社刊)などの著書で、女医として女性の立場に立って発言してきた宋さんですが、いざ自分のこととなると、妊娠・出産には予想外にハードで、経験してみて初めて分かるようなことばかり。自分が出産を経験するまでは、妊婦さんの気持ちに寄り添って診察できていなかったことを反省し「妊婦さんたち、これまでゴメン!!」という気持ちでいっぱいになったと、本書の中で打ち明けています。



 また、本書の中で、新米ママに必要なのは「情報収集力」よりも、情報を「スルーする力」だと指摘しているのも見逃せません。



 初めての妊娠・出産は、ただでさえ不安になりがち。スマートフォンを片手に、容易に情報が入手できる現代社会では、Twitterやfacebook 等のSNS上には、先輩ママの育児日記や"自称"専門家のアドバイスが溢れかえっています。マジメで責任感が強い人ほど、ネットでの検索に懸命になりますが、そうやって得た情報に医学的根拠があるかと言えば疑問だらけ。眉唾情報は受け止めずにスルーして、ママが笑顔でいることが、赤ちゃんにとっては1番であると述べます。



 宋さん自身の体験も交えて、母親たちへのエールを込めて執筆した本書は、ママ自身が笑顔で「これでいいのだ!」と思える情報が満載の1冊となっています。



【関連リンク】

宋美玄 オフィシャルサイト

http://www.puerta-ds.com/son/